電話
アルゼンチンはトリニダード・トバコに3対0で勝利。
グループリーグBの順位表は第2戦を終え、
1位日本、勝ち点6、得点6、得失点差+5。
2位セルビア、勝ち点3、得点7、得失点差+2。
3位アルゼンチン、勝ち点3、得点3、得失点差+2。
4位トリニダード・トバコ、勝ち点0、得点0、得失点差-9。
となる。
勝ち点と得失点差でセルビアとアルゼンチンが並んだが、得点数が多いセルビアが2位となる。第3戦、引き分けまたは勝利でセルビアは2位以上が確定し決勝トーナメント進出が決定。3位になった場合トーナメント進出は他のグループの結果次第になってしまうため、両チームはなるべく避けたいところだろう。
2連敗のトリニダード・トバコは決勝トーナメント進出の可能性がほぼ消えてしまった。日本戦にはどのようなモチヴェーションで臨んでくるだろうか。
夕食を摂ったあと、俺はホテルのフロント近くで日本に電話をかける。試合が終わって数時間が経過していた。
「電話して大丈夫? 日本は何時だっけ?」
「時差はないでしょ。同じ午後8時」
「そうか。試合見たよね。ナーイスなゲームだったでしょ?」
「生中継はないって言ったのカズ君でしょ。1時から録画放送だよ。BSで」
「BS? ああブロードキャスティングサテライトのことか」
栞は笑って。「そんな言葉の略だったんだ。だから試合どうなったかわからないよ。ニュースも見てないし……1度これから寝て夜中に応援しようかなって」
「そう。ネタバレしたら駄目?」
「カズ君がしたかったらしていいけど……」
「いやあまさかあんな展開が待ってるだなんて。実に意外性あふれる試合でしたなぁ」
「そんなすごいゲームだったの?」
「これから事前情報なしに観れるのがうらやましいレヴェル」
「そんなにか……。でもなんとなくカズ君余裕あるから負けてはないってわかるよ」
「わかるか」
「出場したかくらいは教えてくれるよね」
「もちろん出たよ。途中で代えられちゃったけど。さすがに疲れた」
「お疲れ様」
少し無言。相手によって態度を変えてしまうのはよろしくないのだけれど。
話題を切り換えて。「本当にいい試合っていうのはさ、このまま終わって欲しくないって思うんだよ。どんなに苦しくってもそう思う。今日の試合もそうだった。できればフルで出たかった」
「監督の人の考え次第なんじゃない? 青野さんっていうんでしょう。どんな人なの?」
「面白い人だよ」
「それじゃわかんない」
「いい意味で子供っぽい人かな。いい意味でね。言うことは論理的でいちいちうなずける。すごい優秀な監督だと思うよ。特に……そうだね。選手の適性を見極めるのが上手いんだ。今日もボランチだった奴がサイドバックで活躍したしこれまでもそういうのが多かったらしい」
「カズ君も普段FWなのにボランチやってるよね」
「ああそれは言わないで言わないで……俺はこのチームで仕方なくやってるだけだから。本職はストライカーだから」
「そんなに嫌なの?」
「俺に有村の真似なんてできないよ。ボランチじゃあいつに勝てない」
「……有村さん? 前の試合にもでてたあの人?」
「今日の試合にもでてるよ」
「そんなにすごい選手なの……。目立つ感じじゃなかったけど」
「サッカーはミスして当たり前なんだから悪目立ちしないだけでもいい選手ってことになるよ。トラップも簡単なパスも基本がなってないとできないんだ。有村は使えるよ」
「どんな人なの?」
「それがまぁ全然わかんない奴なんだけどね。学年は1個下」
「それよりさ……」
「うん」
「勝ったんだよね。話し方でもうわかっちゃうよ。浮ついてるから」
「う、浮ついてる……まだ大会はこれからなのに」
「優勝以外は褒めてもらいたくないんでしょ?」
「うん。優勝しなかったら日本のことなんて誰にも憶えてもらえないよ」
「勝ったってことはもうトーナメント行きは決まりなんだね」
「そう。こっからが本番だよ。強いチームしか残らないだろうし、負けたら終わりだからプレッシャーがある。今から楽しみだよ。本当……今は本当に楽しんでる。チームメイトはみんなうまい奴だし、それに変な奴らばっかだ。俺も変な奴だって思った?」
「そんなことは……うーんそうかも。変かもね」
「たとえばぁ?」
「たとえば何年かぶりに会った年下の子を口説いたりね」
確かにね。