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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第1戦/幸先
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木之本伴その1

 回想。

 時間はさかのぼって1週間前。


 場所は成田空港。俺は出国審査を済ませ動く歩道で移動する。

 選手やコーチ、スタッフといった日本代表御一行の半数ほどがすでに搭乗ゲート前のベンチでまっていた。

 空いている席に座ると隣は木之本。見るからに緊張している。右手にしっかりと搭乗券を握りしめていた。

「大丈夫か木之本?」


「え、木之本。僕の名前憶えてくれたんですか」

 こいつは半年前から代表に呼ばれるようになった新参の選手だ。長身に似合わず童顔。以前練習試合で対戦したことがある。


「ビビんなよ今はチームメイトだろ」


 木之本は眼鏡に触って。「倉木さん」


「試合中『倉木さん』は長いだろ。倉木でいいよ」今のうちに慣れておけ。


「学年も一つ上ですけど」


「そんなの関係ない。そういう性格かなぁ……海外初めてじゃないんだろ?」


「4回目です」


「ならもうちょっと慣れてたっていいだろ……うーんそうだな。サッカーの話しようぜ。けっこう俺サッカー興味あるんだ」

 周りの奴らが吹きだす。冗談だとわかってもらってうれしい。


「それどころか代表のエースでしょう」と木之本。「サッカー……大会のことですか?」


「お前詳しいんだってな」サッカーについて。


「人よりは詳しいつもりですけど……初戦はアルゼンチンですね。世界でも5指にはいる強豪。南米大会で優勝していますし、本大会でも優勝候補です」


「どういうサッカーなんだ?」


「南米らしく個人技主体のサッカーです。FWが数えるのも面倒なくらいいっぱいいる国ですから」木之本はナポリの10番の名前を挙げた。「きっと彼の影響でしょうね。ウィングやドリブラータイプの選手ばかりが育っている。決定力のある選手が前線にそろいます。でもゲームメイカーがいない」


「ゲームメイカー」


「そう。日本には4人います。これは大きな長所です。中盤のパス回しなら日本が勝つはずです。そうじゃなきゃ勝機はない」

 木之本は熱のこもった喋りになっている。


「どんな試合になる?」


「むこうはボールをもたせるかもしれない。日本がパスを回す。でも点が獲れない。アルゼンチンは7割の力でサッカーする。でもどこかでギアをいれかえる。南米王者ですからね。勝負所をわきまえているんですよ」


「あくまで予想だが」


「予想ですけど……彼らは100点満点を獲るサッカーをしてこないでしょう。そういうのはトーナメントにはいってからになると思います」


 なんとなく理解した。初戦でぶつかるアルゼンチンは完璧なチームではない。

 それに自分は多分中盤で使われる。FWとマッチアップするのは基本的にDFだ。

 フィールドの中央は俺のもの。アルゼンチンの何某のものではない。


「他の2チームはどんなもんだ?」


「セルビアも難敵です」中米の。「トリニダード・トバコは実績がなく未知数な部分が多い。でもトリニダード・トバコは正直アウトサイダーです。実力は最弱でしょう。前評判は3強1弱です」


「つっても実際やってみないとわかんないだろ?」


「ええもちろんです。ともかく2位以上にはいれば決勝トーナメント。3位にも可能性があるルールです」


「まぁ全部勝ちに行くに決まってる」

 俺は有村がゲート前にやってくるのに気づいた。あいつが最後の選手だろう。迷子になりかけていたのか、俺たちの姿を見てほっとしている。

「迷いかけたろ?」


「そんなことありません」有村は棒読み。そして木之本のほうをむいて。「木之本伴さんですよね?」


「こいつも高1でお前とタメだよ」


「有村コウスケです」有村は頭を下げる。


「ど、どうも」と木之本。

 同い年でも反応は変わらないようだ。木之本は立ち上がり席に座るよううながす。有村は断る。

 係員が入り口を仕切っていたポールを動かした。もう搭乗する時間だ。

 移動を始める代表御一行。俺も改札機前の列に並ぶ。木之本は黙ってついてくる。有村はもたついている間になぜか最後尾。もっと話をしたかったのか後方から叫んでくる。


「木之本さん!」こいつまで敬語だ。キャラが被っている。


「なんですか?」と木之本。


「……優勝して帰ってきましょうね!」

 関係者ではない普通の乗客が振り返っている。わけがわからないだろう。大会のことはニュースになんてなっていないから(恥ずかしいぞ有村)。

 そして俺たちのなかに有名人なんていない。A代表ならともかく世代別の代表選手の知名度などこんなものだ。


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