水上道その2
木之本がすごい。
日本が高い位置でボールを失う。
セルビアのDFにすぐまさプレッシャー。
しかしテスラがボールをつなぐ。
左サイドに流れた7番にスルーパス。
そのパスに先に反応したのは木之本。戻りながら長いスライディング。
倒れながら戻った佐伯にパス。
あっさり日本ボールにしてしまった。
佐伯から俺へ。俺は右サイド、高い位置に残った水上にパス。
その水上をもう木之本が追い越している(水上が木之本にパス)。どんな馬力だ。
セルビアの選手が2人追走する。日本の右サイドバックは相手から体力を奪い続けている。
前の試合先発だった大槌との違い、それは思いきりの良さだ。頭で判断する前に直感で動く。
木之本のロングクロスから鮎川のヘディングシュート。しかしゴールの上へ外れた。
鮎川は親指を立てる。ベンチの青野監督は「オッケー」と。
けれども木之本は険しい表情を崩さないのだ。
日本の右サイドがセルビアを脅かす。
水上のキープ力に木之本の走りが加わればそれでもう十分。
俺はシンプルにプレーし水上と木之本に花を持たせる。
前半21分。
ボールを奪った木之本がそのままフィールドの中央を駆け上がる。シュートを狙え!
これはファウルで止めるしかない。セルビアのボランチのタックルに主審が笛。カードがでる。
無双と形容しても良いほど木之本は暴れまくっている。本人はまるで満足していない様子だが……。
木之本はセルビアの築く壁のなかにはいる。肘のぶつけあいにもけろりとした顔。
直接狙える距離だ。セルビアの高い壁。だがあえてそこを狙う。
俺と有村が並ぶ。ここは俺が。
有村が手をふりペナルティエリアの味方を動かす。それと同時に俺が蹴る。
ボールは動かない壁の上を越す。GKは反応できない。
しかしクロスバーの上。スタンドからため息が。
ゴールキックで試合再開。俺はテスラの位置を確認。
ボランチの位置から本来の左サイドに戻っている。
セルビアの2トップは相変わらず日本のセンターバックコンビに苦戦している。
ならばテスラが味方を動かすパスで日本の最終ラインを崩すしかない。
セルビアの遅い攻撃。
日本は4バックと3人のMFで守る。
テスラが左サイドでボールを持つ。
テスラの選択肢は主に5つ。
(1)オーヴァーラップする左サイドバックを使う。
(2)ゴール前の2トップにボールをいれる。
(3)ボールをキープできるボランチの6番に横のパス。
(4)右に流れているドリブラーの7番にロングパスでサイドチェンジ。
(5)ゴールにむかってドリブル突破。
だがテスラをマークしているのはこの俺。
影を踏む超至近距離でマークしている。ルックアップすらできない。隙ができればボールを奪ってやる。だから、
リスクの少ない(3)を選ばざるを得ない。ボランチの6番にパス。
テスラは(5)、しかけることもできたのだ。しかし俺をどうにかかわしても逢瀬、近衛が相手では厳しい。
ボランチからさらに横パス。これをセルビアの7番が胸トラップからミドルシュート。
だがマルコーニの正面。ボールを下に叩き余裕のセーヴ。
セルビアは日本の守りを崩せない。そして日本のカウンターアタックを恐れている。アルゼンチン戦で見せた俺の個人技を知っているから。
ディフェンスラインを上げたあとにマルコーニがゴールキック。
鮎川を狙ったボールだったがここはセルビアのセンターバックが先に触る。
日本陣地にむかって蹴りだすが飛びだした近衛がカット。
近衛から有村へ。有村は前が空いているのでドリブル。そうだ、パス一辺倒では選択肢が狭い。
左サイドを攻め上がる有村。ハーフウェーラインを越えた。
有村の内側を樋口が上がり、パスをもらいにFWの鹿野が下がる。
有村が右斜め45度に鋭いパス(わかってくださいよ)。
有村が狙ったのは樋口ではない。
鹿野でもない。
2人の延長線上にいる鮎川だ。鮎川は左サイドにできたスペースにパス(DFが鹿野に釣られていた)。
両腕をふりまわしながら走る鹿野がGKと1対1になる!
しかし奇跡は2度も続かなかった。鹿野はGKのテリトリーにシュートを放ってしまう。
ボールを弾いたGKはそのまま前に走りふがいないDFに何事か叫んでいる。
頭を抱える鹿野。ま、鹿野が動いてつくったチャンスだ。自作自演といったところか。
有村が蹴ったCKはおしいところで誰も触れずゴールラインを割った。
セルビアの攻撃。しかし右サイドでパスがつながらず日本のスローイン。
自陣の左サイドの深い位置。スローインからボールをつなぐのは見た目以上に難しい。
しかしこの攻撃からだった。