水上道その1
水上道(みずがみ・みち)
所属チーム/静岡学院中
適性ポディション/ウィング・センターフォワード
背番号/19
利き足/右
学年/中学3年
出身地/静岡
身長/162センチ
体重/65キログラム
呼称/ミズ・ミチなど
「鹿野様がついにいつもどおりの実力を発揮されましたな。日本の勝利は手堅いですぞ」
鹿野はそう言う俺を睨みつけて。「何言ってんだ。今みたいなシュートなんて決めたこと1度もねえよ」
鮎川はいぶかしんで。「そうよカズちゃん。今のなんて1000回に1回、いえ1万回に1回のプレーよ」
「1万は言いすぎだろ」
俺は洗脳眼。「やはりご本人がおっしゃったように鹿野様にボールを渡せばゴールに叩きこんでくれますぞ。鹿野様は日本の至宝ともいえるご存在。我々は一緒にサッカーができる幸運を噛みしめるべき」
鹿野は自陣に戻りながら口を尖らせてみせる。「なんだよ俺がゴール奪ったのがそんなにうっとおしいのか? うぜえんだよ倉木」
「ゴリラ野郎にも冗談は通じたか。1点で満足するなよ」
当然試合の趨勢は日本のものとなる。前半18分の勝ち越しゴール。
逢瀬、佐伯、有村と連続して鹿野を狙ったパス。特に有村のパスは『無茶ぶり』でしかなかった。だが3度目の正直で鹿野が決めた。
DFはボールをおさめることができなかった鹿野に3度目のパスがないと思っていた。有村はそれを狙って相手の裏をかいた形のパスをいれた。そのためにDFは反応を鈍らせてしまったわけだ。
鹿野は動き出しに命を賭ける純粋なストライカー。名手が集まる代表チームにあってただ1人無骨で不器用で1つのことしかできない。奴がピッチ上でできることはゴールだけ。それを今決めてみせた。
日本の右ウィング、水上道は笑っている。
ゴールが決まったから笑っているのではない。こいつはいつだって笑える。「笑え」といえば0.5秒で笑顔になれるような奴なのだ。
「すごいゴールでしたね」と水上は俺に話しかける。右拳を突きだして。「ズバーンって決まりましたよ」
「ありゃ事故みたいなゴールだ」
(事故みたいなゴールでも)。「鹿野さんがあきらめないでボールを追いかけたからですよ」
まぁそこが鹿野の長所だから。「次はお前の番だろミチ」
「そうですね。ズッとしたボールがはいったらピタッと止めて決めますよ」
擬音語が多いな水上。「つまり足元に速いパスを寄こせってことか?」
「はい。どうしてもこの身長ですから競り合いじゃ勝てないです。中盤からビタッとしたボールがくればDFをかわせるんですけど」
中坊が大きい口を利くじゃないか。「じゃあお前を信じてきついパスいれていいんだな? お前がミスっても味方がフォローしてくれるかはわかんねぇぞ」
水上は笑顔のままで。「僕を信じてください。中学生でもチームの一員なんですから。これから実力で証明します」
水上もまたどこか気負ったところのある選手だ。どこにでもいるサッカー小僧ではない。
こいつの物語を俺は知らなかった。静岡の強豪サッカー部のエースストライカー。代表ではウィングで使われている。