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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第2戦/幽玄
33/112

鹿野島荘その1

 鹿野島荘(かの・しまそう)

 所属チーム/安楽大学砺波高

 適性ポディション/ウィング・センターフォワード

 背番号/20

 利き足/右

 学年/高校2年

 出身地/富山

 身長/179センチ

 体重/72kg

 呼称/カノ・シマなど



 回想。

 セルビア戦の前々日。ピッチ上で練習前のストレッチをする選手たち。

 俺は立ち上がりクーラーボックスからボトルをとり飲み始めた。

 くーっとか言っている俺に監督が背後から話しかける。「鹿野のことは詳しい?」


「うわびっくりした!」


「鹿野はね、1人でここまできた選手だ。他の選手とは違って恵まれた環境でサッカーを学んできたんじゃない」

 鹿野は選手が集まる『島』の端でコンディショニングコーチの槇さんから話を聞いている。


「富山でしたっけ?」


「そう。富山の公立校のサッカー部に所属していた。でも顧問の先生は素人で練習もろくにみないような人だった。鹿野はビデオを観たり教本を読んだりして自分で練習メニューをつくった」


「中学3年間ロクに指導を受けていなかった奴がここでプレーしている……」

 いい選手は良い環境で育つ、それが常識だ。


「鹿野はサッカーが好きなんだよ。上手い下手はおいておいてね。鹿野はヘタウマの究極みたいな選手だ。ボールのタッチは下手。リフティングも駄目。でもトップレヴェルでプレーできる」


「……アイツは諦めないんですよ」


 青野さんは瞬きをする。「諦めない?」


「そう。何度難しいパスに追いつけなくても、何度DFに潰されてもへこたれない。失敗しても精神的に動揺しない。普通試合中ミスをしたらどんなFWでも『逃げのプレー』に走るもんなんです。サイドに逃げたり中盤でボールをもらいたがったり。でも鹿野はそういうのがない。試合中いつもゴールすることだけを考えている。できることが少ない分余計な思考がないんでしょう。だからボールをもったとき第一に鹿野を選択してしまう」


「鹿野はね、なんていうか雰囲気があるでしょう? 『華』っていうのかな。論理的な表現じゃないけど」


「そうですね……なんていうか、あいつにボールを渡せばなんとかしてくれるって思いこんでしまうんです。テクニックもろくにないのに、あいつががむしゃらに走って体のどこかにボールがあたればゴールになる気がする。実際選手権とかじゃ活躍してるっていいますし。安楽大でしたっけ?」


「中学のときにそこの監督が見ている試合で3点獲ったんだ。チームメイトは彼に点を獲らせるためだけにその試合プレーした。彼がそうさせたんだ。いわばセルフプロデュースだよ。鹿野は自分自身の才能で道を切り開いてきた。他の奴等とは違うって自負が鹿野にはある。だからこうやって孤立していてもかまわない」

 選手たちは雑談しながら寝っ転がって体をほぐしている。

 鹿野は誰とも話をしていない。

「倉木は鹿野ともう長いでしょ? 2年前のチームの立ち上げのときから一緒だったんだから」


「仲良くしろってことですか? だったら……鹿野がそう思うんなら話しかけますよ」


「本人が?」


「鹿野は言葉じゃなくて実力で認められたがってるんですよ。不言実行ですよ。そのほうがカッコイイから」


「言ったら悪いけれど面倒な性格してるよね」


「でも次あたりで『初日』はでると思いますよ。なんとなくですけど……」




 セルビアの同点弾から10分が経過。

 試合はようやく均衡状態に落ち着いた。相手に攻めこまれてもDFが落ち着いてクリア。中盤もしっかりつなげるようになっている。ようやくサッカーらしくなる。

 俺はテスラの位置ばかり気にしていた。テスラは低い位置でボールを無難にさばいている。

 どうした、攻めてこないのか? 『おかわり』はいらないのか?

 テスラは味方を活かすプレーに終始する。他の選手はみな高さやスピードに長所がある。10番のために走るいわば『労働者』というわけだ。身体能力がさほど高くないというテスラの弱点を隠すために存在する。



 ボールをもったテスラに鮎川が背後からはりつく。しかし鮎川はいなされた。テスラは右に開いたセンターバックにパス。

 自陣近くでボールをなくすほど無能ではない。

 テスラは味方へ指示をだしている。彼がこのチームの頭脳。その才能はさきほどのゴールで痛感させられた。

 センターバックから右サイドバック。右サイドバックからテスラ。

 ここから大きな展開。

 テスラがいないことで空いた左サイド。セルビアのサイドバックにマークがない!

 するするとポディションを上げていたのか。

 木之本が慌ててマークに。

 セルビアの3番はシュートを狙っている。

 カットイン。

 しかし木之本はその動きを読んでいる。スライディングで阻止。

 ロングパスからのセルビアのチャンスは終わった。倒れた2人を背後に逢瀬がドリブルで上がる。

 30メートル。

 ハーフウェーライン手前から今度は逢瀬がロングパス。

 キック力は並じゃない。

 右サイドバックの背後を突くボールだ。

 鹿野が「おらぁ!」と叫びながらジャンプ。しかしカヴァーにはいったセルビアの長身センターバックに負けた。ヘディングでクリア。

 その選手が倒れた鹿野を睨みつける。(身長差は10センチほどあるだろう。高さで勝てるはずがない。無駄なことを)。

 鹿野はすぐ起き上がる。反省などしない。少なくとも試合中そんな(いとま)はない。

(ほらきた。佐伯からグラウンダーの縦パス。有村へ落として……)。

 だがセルビアの2番に負ける。タッチした時を狙われクリアされた。

 攻撃を急ぐセルビア。ボールをひろった7番が右サイド、ドリブルで運ぶが有村がスライディングでカット(しかけていい位置じゃなかった)。

 有村は即座に起き上がり即座に配球。狙いは。

 左手に走る鮎川へロビングのパス。しかし高すぎる。有村の本命はなんと……。

 その背後に走る日本のFW。3度鹿野だ。セルビアのマークはゆるい。

 ゴールはすぐそこ! 競り勝て!

 虚を突かれたDFは慌てて足を上げる。頭上のボールをオーバーヘッドキックでクリア?

 いや、後ろに倒れながら爪先を伸ばした鹿野のほうが早い。

 右足で先にタッチすると、体が倒れる力を利用しながら素早く反転。ボールを追いかけるように……。

 前をむく。GKが飛び出している。

 鹿野は加減なしに左足を振りぬく。

 キーパーの左肩に当たった。しかしボールは勢いそのままネットに突き刺さる。

 その様を見ながら鹿野は走りだす。ついに奪取!

 口を開け、両腕を突き上げ、アシストをした有村の元へ。有村は表情を変えずに年上のストライカーを迎え当たり前のことを口にする。

「勝ち越しですね」




 日本

    2-1

        セルビア


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