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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第2戦/幽玄
32/112

倉木一次その3

 俺にはわかる。テスラが何をしているのか。

 テスラは佐伯を見ていない。

 俺を見ているのでもない。

 走りながら見ていたのはキーパーのマルコーニ。

 俺は足をだす。間に合うか?

 間に合わない。

 テスラはバウンドしたボールを足の甲で捉える。

 ボールは低いループを描き、1歩、ただ1歩前に出ていたマルコーニの上空をいく。前に体重を乗せていたマルコーニは最高に至るジャンプができない。

 腕を上げながら見送るしかない。

 ボールはネットをくぐる。



 フェイントをいれたダイレクトボレーループシュート。

 全力疾走のエネルギーを乗せた『ズドン』なシュートだと俺すら錯覚していた。ビッグクラブを相手に決めたあのミドルを再現してみせると。

 現実にはシュートの直前にブレーキをかけ、正確さを重視した技巧的なショットを決めてみせた。

 もし強いシュートを放っていれば、(1)逢瀬がシュートコースを限定してたし、(2)タイミングがまるわかりだったこともありマルコーニが止める確率は高かった。

 だからこそテスラは浮かせたシュートを選択したのだ。


 倒された近衛が主審に抗議している。しかしファウルにはならない。セルビアの同点ゴールは認められる。

 テスラは心臓を叩きながらチームメイトの元に駆け寄る。




 日本

    1-1

        セルビア

(前半7分)



 早くもセルビアが追いついた。

 両チームの守りがばたつきチャンスをつくりだせる『流れ』は止まっていなかった。

 テスラはその『流れ』を読んでいた。サイドバックにロングパスをいれさせたのはテスラの指示。テスラはその数秒前にペナルティエリアの前まで走っていた。

 FWと日本のセンターバックが競りあう。中途半端なクリアをゲームメイカーのテスラがひろう。

 佐伯と俺の対応は確かにまずかった。それをぬきにしてもテスラのシュートはできすぎだ。


 日本のゴールは人数をかけたカウンターアタック。ゴール前で6対3の状況をつくりだした時点で日本はセルビアを詰ませていた。

 セルビアのゴールはテスラの超個人技。ゴールまで約18メートルの位置から2人の選手に囲まれながらGKの位置を見て美事ループシュートを決めた。


 日本は走りで相手を圧倒するサッカーを目標に掲げ、ボールを奪えばポディション関係なく全員でゴールを奪いにいく。今日の先制点ではまさにそんなゴールだった。

 セルビアのサッカーはキャプテンのテスラを中心としたパスサッカー。初戦のトリニダード・トバコ戦はまさにそんなサッカーだった。だが今のプレーは単にテスラの個人技が作動したというゴールにすぎない。

 だから。



 俺は試合が再開する前にチームメイトに呼びかける。「まだ俺たちのペースだ。今のは100回に1回のプレーだ。同じことはまず起きない。佐伯! 同じことはさせないよな?」


「ああ。次はやらせん」


「何本もパスをつながれて崩されたんじゃない。相手もそれはわかってる」


 近衛が手を挙げる。「追いつかれたからって弱気になる必要はないです。まず上手く守って試合を落ち着かせましょう」(オープンな展開は嫌いだ)。


「ともかくマイボールの時間を長くしよう。ボールを走らせて相手に疲れさせよう。それだけでも勝利に近づく。うーんとさ、そろそろ俺以外の奴がゴール決めてもいいと思うんだ。できればFWの誰かがね」


 鹿野が激昂する。「何お前がしきってんだよ。言われなくたって俺が決めるっつってんだろ!」


カチンときた鮎川。「私もFWなんだけど」


「俺もです」と水上。


 鹿野がキレ芸を見せてくれたおかげでチームの緊張は解けた。これからが本当の勝負だ。

 もちろん鹿野は本当に怒っている。だがこいつの実力なら宣言通りゴールを奪いかねない。

 サッカーは得点の少ないスポーツ。だからこそ主役はゴールを奪える選手。

 得点能力に関してならば、鹿野はこのチームのなかで1番になれるかもしれない。

 鹿野は俺の立場を、主人公という立場を喰いかねない存在なのだ。


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