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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第2戦/幽玄
30/112

木之本伴その2

 木之本伴(きのもと・ともなう)

 所属チーム/FFA

 適性ポディション/アンカー・サイドバック

 背番号/16

 利き足/右

 学年/高校1年

 出身地/北海道

 身長/183cm

 体重/73kg

 呼称/キノ・トモなど




 通路のなかで相手選手と視線をかわす。

 日本にも鮎川やマルコーニなど身長の高い選手はいる。それでも人種が違う。セルビア選手は180センチ後半が珍しくないという。足も決して遅くはないだろう。

 高さは自陣と敵陣のゴール前でモノをいう。DFは無理な体勢からでもボールをはねかえせる。FWは強引にシュートをねじ込んでくる。

 この選手たちをパスで操るのが背番号10、テスラだ。日本は抑えられるか。


 審判団に続き22人の選手が入場する。夜の試合、スタンドからカメラのフラッシュがちらほらと。今日も日本のサポーターのほうが多い。


 国歌を歌いキックオフを待つ。セルビアのFWがセンターサークルのなかにはいる。

 セルビアはホーム仕様の赤いユニフォーム。日本は同じくホームの例の青いユニフォーム。


 俺は後方に木之本の姿を探した。

 緊張しているだろう。これが木之本にとっての初戦。いきなりの先発出場。本職のボランチではなくサイドバックでの起用。焦っているに違いない。

 普段の眼鏡を外し、スポーツゴーグルをつけた木之本伴は、戦士の顔をしていた。「モ、モトナウさん?」


 尖った声で後ろを見た俺に声をかける。「なんですか? 僕の名前は伴ですよ。それ言ったの倉木さんが10人目くらいです」


「ご、ごめんなさい」


「集中しましょう。最初が肝心です」




 その最初。

 キックオフからセルビアは飛ばしてきた。

 2トップと両サイドのMFが高い位置に走りこむ。

 右サイドバックが長いボール。左サイドのテスラを狙ったボールだった。

逢瀬がヘディングでカット。こぼれ球を有村が蹴りだす。


 ボールはハーフウェーラインを越える。

 鮎川が競争に負けセルビアの巨漢センターバックがパス。

 右ウィングにむかってボールが飛ぶ。ジャンプしながらも繊細なボールタッチ。

 背番号7。こいつはドリブラーだ。

 タッチライン近くから横の方向にしかけてくる。

 エリア内にまで侵入するも、左サイドバックの樋口と佐伯が囲んで止めてくれた。


 チャンスにはならなかったもののセルビアは攻める意欲を日本に見せつけた。

 次の攻勢でゴールを奪う。トリニダード・トバコ戦と同じく、常に先手先手をとる展開を望む。

 日本チームもフルスロットルで動き回る。日本も前の試合で開始早々に先制ゴールを奪っていたのだから。




 前半4分。

 攻防のなかで先制ゴールが生まれる。


 セルビアのターン。

 セルビアのFWが樋口と1対1。

 ペナルティエリアの右の角からカットイン(その背後をテスラが走る)。

 FWはフリーのテスラへパス。

 テスラは中にいる味方を意識させてから思い切ってシュートを選択!

 GKの弾いたボールを予測していたように近衛が抑える。

 ここから、


 日本のターン。

 もう樋口が前へ走りだしている。それはもう忙しい奴なのだ。

 有村が樋口にいいパスをだしたが、セルビアの選手が前をふさぐ。

 時間をかけられてしまった。セルビアの選手は帰陣している。

 アタッキングサードの崩し。

 樋口が下がってきた鮎川へパス。

 トラップがこぼれた。そのボールを鹿野がフォロー(有村が述べたように空気が読める)。

 鹿野が鮎川へパス。

 左サイドを鮎川が駆ける。ゴール前には水上(後方に俺)。

 鮎川から樋口。樋口がゴール前にクロス。

 水上はセンターバックとGKにサンドされるような位置。

 センターバックのあげた足にボールが当たらない! 水上にとおった。

 シュートは……。

 GKの胸にあたって転がる。つめようとした俺は間に合わない。


 セルビアのターン。

 GKがボールをひろい投槍のようなフォームのロングスロー。

 中盤に人数が足りない。有村と佐伯だけじゃ防ぎきれない。

 セルビアは中央から攻め上がる。

 有村がボランチをふさぐと左に横パス。テスラがボールをもった。

 この位置ではタイトなマークはない。

 テスラが得意とする形になってしまう。前線のFWが動きだす。

 10番が縦に長いパス。左サイドをえぐってくる。

 まるで見えない巨人に持ち運ばせているかのような正確なパス。

 そのボールをFWがタッチする直前、

 木之本のスライディングが襲いかかる。

 ボールが収まる前に勝負を決めにきた。その判断は正しい。

 電光石火の反応をみせた木之本。FWはスライディングをかわす。ピッチに転がり倒れる。

 主審が笛を鳴らす。

 日本のファウルをとった。足はボールにむかっていたのに。

 木之本は不平の表情をすぐに隠す。セルビアボールになりはしたが、やりかたとしては間違ってはいない。

(滑りこみでメンバー入りを果たした立場なのだ。力を出し尽さなければいけない。迷ってなどいられない)。

 テスラがボールの元へ駆け寄ってくる。

 コーナーアークが近い、攻めるセルビアから見て左サイドの奥の位置。

 テスラは声で仲間を急かす。

 俺はテスラの考えがわかる。

 テスラ自身のシュート、水上のシュートとチャンスが続く流れ。

 この『両チームがおしいシュートを撃つ流れ』はまだ断たれていない。

 本来ゴールが生まれる確率が数パーセントにすぎないセットプレーから、あっけなく先制点が生まれるかもしれないのだ。

 この流れを止めたくない。だから少しでも早くプレースキックしたい。

 日本は相変わらず2人の選手を前線に残す。俺と水上が。

 テスラの意図に気づいても俺は攻めの意識をもち続ける。

 セルビア、日本、セルビアとチャンスが続いたのなら、またすぐに日本の番がくる。

 4度目のチャンスを俺たちが決すればいい。

 味方が守りきるのを待つ。

 テスラが蹴る。

 カーヴするボール。

 GKやDFの頭上を越える。狙いは遠いサイド。

 敵選手の前で鮎川が触る。はねたボールをヘディングで下に叩きつけコントロール。

 ロングパスを俺の元へ届ける。


 日本のターン。

 背後にDF。俺は右や左に旋回するフェイント。

 まだセルビアゴールまで距離がある。水上も慌ててはいない。

 今のところ3対2で日本の選手が少ない。今のところ(・・・・・)

 俺をマークするセルビア選手が眼を険しくさせる。何が起こっているのかに気づいたからだ。

 攻撃に加わる日本選手は4人。セルビアの選手は間に合っていない。

 逆襲のスイッチがはいったのは鮎川がボールを止めた時。

 木之本、樋口、鹿野、佐伯が走りだしていた。

 カウンターなら本来の役割は関係ない。単純にもっとも相手ゴールに近い選手が走りだすべきだ。

 走ることは味方を助けること。この状況で走らないことは害悪ですらある。

 カウンターのカウンターが怖い? 守りは残った奴に任せておけばいい。

走りあいなら日本は負けない。

 俺の左を走り抜ける木之本へパス。

 その木之本を水上がさらに追い抜く。

 木之本のドリブル。まだ後方のセルビア選手は追いつかない。

 木之本の選択は?


 前方の水上はない。角度のないところからクロスを送っても相手は守りやすいぞ。


 中央でまつ鹿野はない。間に立つDFにブロックされる。


 佐伯は近すぎる。マークがそのままついてくるだけだ。


 みずから撃つには遠すぎる。樋口はDFと並びこぼれ球を押しこむ体勢。


 だから俺だ! 俺を使え木之本!

 木之本は真横にパス。そこには俺がいて。

 左足でトラップ。右足でヒット。キーパーの右手をかすめゴールイン!

 またしても俺だ!

 ゴールへのパスに成功した俺は、スタンドの日本人が集まるほうへ走りだす。

 サポーターの前で両腕を大きく広げ、右拳を突き上げる。

「レスラーかよ」と追いかける佐伯はつぶやく。

 青野監督が指を2本立てた。2点目だね、と。

 直後、俺はすべての選手に押しつぶされる。




 日本

    1-0

        セルビア

(前半6分)


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