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娯楽室にて

 アルゼンチン戦から2日後、セルビア戦を翌日に迎えた夜。


 夕食を済ませた選手たちは就寝までの時間をリラックスした様子ですごす。

 試合は明日だが開始は夜遅く。今から緊張しても仕方がない。



 娯楽室内で有村と鹿野が卓球を楽しんでいる。

 近くにいるとトリックアートでも観ている気になる。やたらいかつい体格で実際の身長以上に高く見える鹿野と、いつも落し物を探しているかのように下をむいた有村。同じ背の高さにはなかなか見えない2人なのだ。

 俺はフォアハンドで強打する鹿野に話しかける。「ようチンピラ。本国には送還されないのか?」


「ああ? 誰がチンピラだよ」


「お前だよアゴ野郎。青野監督に説教喰らっていただろう?」


「……俺の試合中の態度があれだったからな。だが俺は代えの利かない選手だ。監督が俺を使わないことなんてありえねえ」


 そんなことはわかっていたのだが。「主審に抗議するならともかく、ハンドで守ったDFを削りにいったからな。そして交代されてもピッチからひきあげなかった。時間稼ぎととられて主審にカードもらってもおかしくはなかった」


 鹿野は有村が打ち返したボールをキャッチする。「……それについては反省している。同じことはしない」


 どうだか。「お前の持論はなんだっけ? 最強のストライカーは最強のチームにいる、だっけ?」


「そうだよ。クラブ間で自由競争原理が働いている以上、もっとも優れた選手はもっとも金のあるチームに集まることになる。金のあるチームなら当然俺にアシストできる優れたパサーを集められる。敵からすぐにボールを奪い返す使えるDFを集められるんだ。才能がある人間には自分に有利な環境にいられるアドヴァンテージがあるんだよ」


「この代表がお前にとってそうであると?」


「そうだ、お前もそうだ、この有村もそう、左沢も志賀も俺にアシストするために存在する。おとといの試合ではそうならなかったが仕方がない。俺は自分が得点できればそれで満足できるわけじゃない。チームの勝利あっての個人の活躍だ」


「うん」


「たとえエースがゴールを量産しても所属するクラブが降格しちまったら意味がない。そんなことくらいわかっている。俺が得点にこだわるのは俺がこのチームで一番のストライカーといえるからだ。テクニックではない。高さとスピードで相手を上回れる。代表チームのストライカーだぜ。少なくとも日本一の選手だ。いいか? お前らがどう上手くボールをこねられようが、ボールを奪えようが止められようが、サッカーの最強はストライカー、センターフォワードなんだよ!」お前左ウィングだろ。「得点がなければ試合は動かない。なら試合を動かすのは誰か? ゴールにもっとも近い位置でプレーする選手だろうが。それが俺だ。手前(てめえ)らみてえなテクニックがなくともエリア内でマークを外し、飛び出し、体を張ってゴールをねじこめる。お前らみてぇなお嬢様(・・・)みたいな柔い選手にはできねぇ仕事だろうが?」


 俺は掌を上にしてさしだした。


「ボールか?」

 鹿野は俺にピンポン玉を放る。

 俺はそのまま右足インサイドでコントロール。割れやすいボールを優しくタッチする。

「そんなことできたってサッカーの上手さとは関係ないだろ?」


「なこたぁ知ってるよ」

 俺は足の甲、アウトサイドでリフティングを続ける。左足でも同じことを。


 有村は卓球台にラケットを置いて話しだす。「倉木さんは喧嘩売るようなこと言わないでください。チームメイトなんですから」


「はいはい」


「鹿野さんは俺がおれがって性格アピールしたいのかもしれませんけど、試合中は空気読んでますよね。倉木さんがゴールしたときもシュートコース空ける動きしましたし、カウンターのとき志賀さんにアシストしかけましたし。これについてはどう思ってらっしゃるんですか? 今言ったことと矛盾しませんか?」


「う、それは……たまたまそういう気分だったんだよ!」


「お前のほうが追いこんでじゃないかよ」と俺。「鹿野、ほら」

 そしてピンポン玉を鹿野の膝元へ蹴る。

 鹿野はファーストタッチでコントロールしきれず大きく浮かせる。いかにも不器用な動き。大きく上げた右足がボールを蹴り潰した。

「破壊! これで代表なんだから逆に尊敬に値するよな」


「ですよね」と有村。


「お前、お前が寄こしたからこうなったんだろ! お前が謝ってこいよ!」

 うん。


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