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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第1戦/幸先
22/112

倉木一次その2

 日本は鮎川に代え古谷を。2トップの一角にはいる。

 アルゼンチンは中盤の選手を下げFWをいれてきた。日本の最終ラインの間で裏を狙う。



 アルゼンチンが押しこんでいる。

 だが先ほどのカウンターほどの怖さはない。ゴール前にスペースがなければボルヘスも怖くない。

 そのボルヘスが左サイドに流れクロスボールを蹴る。

 跳ねかえす近衛。佐伯が前をむいて大きくクリア。残りのDFとGKが「よおし!」と声を挙げる。

 アルゼンチンの最後尾のセンターバックがボールをひろいドリブル。

 鹿野が襲いかかる前にパス。

 鹿野と古谷の2人が前線に残っている。トップ下の俺は中盤の低い位置。仕方なく下がって守っているのではない。攻撃に移るためにはボールを奪わなければいけないからだ。

 俺はまだ追加点を諦めてはいない。

 試合の流れを読むのだ。

 俺は前半6分のゴール以降まだシュートを放っていない。狙うなら今だ。

 ロングフィードをアルゼンチンの9番がそらす。アタッカーに渡りかけたところを俺が強引に奪う。

 これが中盤でプレーする利点。ボールを奪った瞬間ならばマークはない。

ハーフウェーラインを越えたところで有村にパス。少しは働け。

 有村は俺に。


((すぐリターンパス))。


 ワンツーで前をむく。加速する前方へのパスだった。

 鹿野が手を挙げ走る。ペナルティエリア左。

 古谷が眼の前。デコイランで右斜めに走る。

 古谷は1人釣った。3人が俺のマーク。

 思い切ってシュートを狙う。

 前半被弾している以上防ぎにいかざるをえない。

 飛び出した5番をかわし加速。左のDFが追いかける。

 並走されるが追いつけない。こいつは俺の最速を知らない。

 最後のDFが古谷を捨て俺を潰しにきた。前後から挟撃してくる。

 前に体重が乗ったそのDFを挫かせる。2時の方向にスルーパスを通す。

(足を止めた古谷は反応できない)、スルーパスを受けるのは出した俺自身。

 DFはふりきった。しかし最後の敵がいることはわかっている。

 味方が抜かれることを察し飛びだしたGK。シュートでは体にあたる。

 パスなら通せる。ボールに追いつきながら体をひねる。GKを越えるクロスをあげ倒れる。

 鹿野が頭からつっこんでいく……。

 素早く起き上がった。古谷が主審に抗議している。ボールは? ゴールのなかにはない。クリアされたのか? 鹿野がシュートする前にDFが奪った?

スタンドからの声が大きく、そして荒くなる。

ともかく試合は止まっている。

 俺は頭上の電光掲示板で確認した。

 ……リプレー。俺が3人を抜き去りGKをひきつけラストパス。

 ボールはアルゼンチンのキーパーの伸した手にはあたらない。

 ボールは無人のゴール前に。あとは鹿野が押しこむだけ。

 しかしアルゼンチンの6番が前方に。彼が右手(・・)でボールをはたく。そしてキック。ゲームを切った。

 スタンドのざわめきが怒声に変わった。

 見えていなかったのか? エリア内のハンドならPKのはず。

 手を挙げて古谷が主審に抗議している。佐伯もここまできてたどたどしい英語で話しかける。

 覆らないだろう。苦しい顔をした主審はスクリーンを見ようとしない。一度下した判定を改めようとはしない。

 今1番問題なのはゴールが認められなかったことではない。正確なジャッジを下せない主審でもない。味方だ。

 鹿野は手を使ったDFに伝わらない日本語で喚いている。「何手ぇ使ってんだよこの」放送禁止用語。「がぁ! ろすぞテメェ」クローンヤクザかお前は。

 俺は鹿野の腕をつかみ。眼の前には両腕を広げしらばっくれるDF。まあそういうものだろう。びくついていたらハンドリングを認めたも同然だから。


「ミスジャッジだ。しょうがないだろ」


「しょうがなくなんてねえ! あいつが手なんて使わなきゃ俺がゲットしてたんだよ!」


「お前が最強でいいからさ……ゴールならもっと大事な時に決めりゃいいだろ」


「試合が決められたんだぞ!」


「完璧なジャッジなんてありえない。それも含めてサッカーだ」俺はゴール裏の時計を確認する。後半43分。「守りきれるだろ。現実にゴールは認められていない。それが前提だ。リードを守って勝ちきることに集中しろ」

 大人になれよ、と俺。

 確かに不可解で不条理な判定だった。でもそれも含めてサッカーだ。わからないなら試合に出る資格はない。


 主審は日本の選手に試合の再開を急かす。佐伯と古谷は元のポディションに戻る。

 ベンチから出てラインの内側にはいりこみ『物言い』をしていた監督。今はベンチの前で立って手を叩き「集中!」と声を挙げる。あからさまな誤審に対して感情的にはなっていなかった。

 どうやら攻撃の時間は終わったようだ。最小のリードを守りきる展開になる。



 ……日本はアルゼンチンを追いつめている。

 日本は左沢、そして俺の超絶技巧で先制点を奪い、アルゼンチンの猛攻を逢瀬、近衛を中心に個人と連携でいなし、潰し、虐げた。最強FWボルヘスの突破は日本のDFにことごとく防がれ、逆襲から日本はチャンスを量産した。アルゼンチンは追いつめられている。手を使わなければゴールを守りきれないほどに。エースが下をむくほどに。逆転を諦めるほどに。

 日本選手は涼しい汗をかき、アルゼンチン選手は油のような汗をかいている。


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