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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第1戦/幸先
2/112

キックオフ

 およそ半年後。



 上空には雲一つない。夕闇が恐ろしいほど美しい。


 スタジアムはさほど大きくなかった。トップチームの本拠地のほうがずっと人がはいるだろう。

 メインスタンド、バックスタンド、両ゴール裏。4カ所のスタンドがそれぞれ離れた構造。隙間から港町が見える。

 ライトアップされたフィールド上、ここから見る限り客の入りは7割ほど。注目度の高いゲームなだけはある。全体の3割が日本を応援してくれるサポーター、それに在豪の日本人といったところ。5割が地元の観戦組、残りがアルゼンチンのサポーターだろうか。


 この試合では対戦相手がホームのユニフォーム。上は水色と白のストライプ。下は白。

 日本はアウェイのユニフォーム。上下とも白が基調。すぐに芝と土で汚すことになるだろう。

 オーストラリアは今が冬だ。この都市は地中海性気候なため寒さはさほどでもない。日本チームは10人が半袖。例外は1人だけだった。



 すでに円陣は解かれている。

 選手たちはピッチ上に散り、試合の開始を待っていた。

 俺がいるのはセンターサークルのすぐ前。キックオフしたボールをもらう位置だ。

 両手を腰に当て長身FWが後方を確認する。もう1人のFWは主審の合図を待っている。

 ハーフウェーライン手前で味方の選手が足踏みを繰り返す。

 その線をまたぎむこうは敵陣。戸籍制度がしっかりしているのか疑いたくなる。対戦相手がみんな揃いもそろって年上に見えるのだ。

 通路で並んだときに甘ったるい体臭がこちらまで漂ってきたことを思い出す。まあ日本人だって醤油みたいな臭いがするというしお互い様だ。

 相手は優勝候補のアルゼンチン。ここオーストラリアと同じく南半球の国だ。個人主義でプライドが高いという国民性。まあ何千万も人がいるのだからアルゼンチン人がみんなそんな奴だとは思っていない。

 アルゼンチン代表にはプロ組の選手が2人。代表チームを優先しこの大会に参加している。

 日本は全員アマチュアプレイヤーだ。

 その点についてはさほど不安はない。連中はみんなプロリーグでもプレーできる実力がある。それに17歳以下の大会なのだからプロ選手はほとんどいない。


 アルゼンチンのシステムは中盤がダイアモンド型の4-4-2。

 注目すべき選手は2トップとトップ下の3人。


 高く速く上手い長身FWが9番。ピッチ内を縦横に走りパスをもらう動きを繰り返す。癖の強い髪は自前なのだろう。


 前線でコンビを組む11番はプロ組のうちの1人。身長は低いが骨が太い。何を食べたらあんな体型に育つのか。多分肉だ。


 10番=ボルヘスはスペインの某クラブに所属。昨年すでに下部チーム(セグンダ・ディビシオン)で15試合15ゴールを挙げた超逸材。来シーズンはトップチームでプレーしているだろう。

 大会直前のトレーニングマッチではフランス相手に2ゴールを奪っている。アルゼンチンの次代のエースとされるプレイヤーだ。

 日本としてはなるべくボールを保持してボルヘスがプレーする回数を減らしたいところだ。

 南米選手権では個人技主体のカウンターサッカーだった。メンバーに変更のある現在は違うかもしれない。



 サッカーが団体競技である以上、最強の選手は最強のチームのなかから選ばれなければならない。日本がアルゼンチンに勝ったのならば、俺はエースとして自動的にボルヘスの上に立ったことになる(と思っていただきたい)。俺はボルヘスという才能を同じポディションの選手として実に意識している。

 俺は自分が世界一の選手であることを証明するためにここにきた。



 俺は今、201×年6月×日オーストラリアの南方の都市、アデレードにいる。

 グループB初戦アルゼンチン戦。そのピッチ。まもなく戦闘開始。



 ……試合前は多少ネガティヴな思考になっても良いと俺は思っている。そうでなければしっかり準備する気にはなれないからだ。体の状態、連携、相手のサッカー、チームメイトとのコミュニケーション。それに試合の入り方、ピッチコンディション、気温に湿度、ジャッジの基準。試合の展開、それによる攻守のオプション。気にしなければならないことはたくさんある。


 一方試合が始まれば常にアクティヴなイメージをもち続けなければならない。一点獲られたくらいで弱気になり、頭を下げてしまうようなチームは優勝なんてとても狙えない。



 ……試合が近づくにつれて、普段の俺とは違う試合中の人格が現れる。とはいっても記憶が飛んだり話し方が変わったりするわけじゃない。他人にはわからない。

 もう1人の俺は目的の怪物。勝利のためになりふりかまわない。普段のおちゃらけた俺とは違うのだ。

 俺はタイトルを獲るために7000キロも飛んできた。

 優勝すれば日本男子サッカー史上初の快挙。

 過去の名手を見下せる(・・・・・・・・・・)

 未来の天才たち(・・・・・・・)が仰ぎ見る(・・・・・)。このチームはそういう存在になるだろう。およそ2週間後、決勝戦を制したあと。


 すると自然に笑顔になる。それを後ろにいるチームメイト7人に見せつける。



 笛が鳴った。FWから俺の足元にボールが下がってくる。

 両チームの選手たちが一斉に相手の陣地へ走りこむ。

 最初のタッチ。すぐに後ろをむきセンターバックへパス。

 さあみんな。

 呑んでかかろうじゃないか。

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