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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第1戦/幸先
19/112

金井侑一その1

 金井侑一(かない・ゆいいち)

 所属チーム/藤枝誠心高

 適性ポディション/センターバック・サイドバック・ボランチ・アンカー

 背番号/18

 利き足/右

 学年/高校2年

 出身地/静岡

 身長/179cm

 体重/67kg

 呼称/カナイ、ユウなど




 金井は主張するぶっとい眉毛、それとあと長い顔の形。サッカー選手らしく短髪。雰囲気はそこらにいる高校生のように野暮ったい(なお自分のことは顧みないとする)。

 金井とは大会3カ月前の代表合宿で初めて顔をあわせた。静岡の某強豪校でプレーしている。(当時)1年生ながら選手権にだってもう出場している。静岡が激戦区なことを考えればなかなかの戦歴だ。


 地元大阪のトレーニング施設での練習中の合間、座って水分を補給する俺にたったまま金井が話しかける。

「小学生のころを思い出してもらいたい。クラスのなかで一番偉い奴は誰だ? 勉強ができる奴か? 親が金持ちの奴か? 顔がいい奴? 喧嘩が強い奴? 強そうに見える奴? そうじゃない。子供のころ一番なのは『足が速い奴』だ」


「突然何を言いだすのか」と俺。


 金井は続ける。「俺はそのころ誰よりも速かった。100メートル200メートルでは誰よりも速かった。サッカーでもボールをもてば誰も追いつけないドリブラーだった。だが中学高校にはいるころになるとそうもいかなくなった。成長期が早かった俺は、少しずつ凡庸な選手になっていった」


「はいはい」


「そして俺は静岡のなかでも街中の出身じゃない。しょせん弱小チームのエースにすぎなかった」


「田舎に住んでるのん?」


「俺は越境し強豪藤枝誠心高校に入学。しかし俺のサッカーはそこでは通用しなかった」


「通用しなかったって前振りするけどここにいるんだからさぁ……」


「俺が本大会の代表メンバーに選ばれているのは、挫折を味わったからだ。自分の長所だった足の速さが通じず、テクニックが通じない。サッカー部員のなかで一番俺が戦力になっていない。そんな位置からレギュラーになりスターティングメンバーになりチームを引っ張る存在になった」


「話長い」


 金井は笑った。「お前のように挫折を知らない男もいるが、俺のように壁にぶつかった男もここにはいるということだ。お前のようなエリートもいれば俺のような落ちこぼれもいる」


「うん、それじゃ俺がなんか後々お前に負けるパターンっぽいからよしてくれ」




志賀がラストプレー、ディフェンスラインの前でボールを奪ってみせた。怪我をおして走っていることはみんな理解している。ボールがタッチを割って両チームが同時に選手交代。


 拍手がスタンドから聞こえてくる。

 後半16分。

 志賀の交代で入るのはMFの金井。アルゼンチンはFWの11番に代えて中盤の選手がはいる。


 日本はシステムをアルゼンチンにあわせる。鮎川と鹿野の2トップ。俺はトップ下で佐伯、金井、有村の3人が中盤に並ぶ。

 アルゼンチンはボルヘスを前線にあげる。フォーメーションは変わらず4-4-2のまま。新しくはいった14番はトップ下らしい。どういうタイプの選手なのか、それはこれから見極めなければならない。



 ……ハーフウェーラインまで下がった14番。そこから左にボールをフィード。

 下がった位置からゲームを組み立てる。ボルヘスとは違い典型的なパサーらしい。

 左にボルヘスが流れている。右サイドバックの大槌が必死に追走。

 遠いサイドに9番ともう1人のアルゼンチン選手がいる。クロスを上げられるとまずい。

 逢瀬、近衛、左沢が横に並び自陣に戻る守備。

 ボルヘスがDFとGKの間にクロスを上げてくるはず。

 しかし現実には、

 走るDF3人の背後をボールが走る。足を止めたMFにラストパス。

 だが近衛も足を止めている。安心の予知能力。ふりむきざまに足を上げキック。

 ルーズボールは金井が拾った。これがファーストタッチ。

 近衛が声をあげる。9番がボールを奪おうと襲いかかる。

 ベンチが金井を投入した意図を理解できる。

 こいつはボランチながらドリブルが上手い選手。

 9番は追いつけない。金井のドリブルのほうが速い。

 ハーフウェーラインを越える。

 アルゼンチンはずっと攻撃していたかった。

 しかし距離を稼がれてしまう。たまらずMFがスライディング。それすらもかわす。

 残るは2人のDFとカヴァーにはいったアンカーだけだ。右に俺。左に鹿野。

 金井は左の鹿野にだすフェイントをいれたあとにスルーパス。オフサイドラインを見て抜け出した俺にくれる。しかし、5番にいつのまにか距離を詰められていた。俺はスライディングに倒される。

 俺はトップスピードのまま腹、胸、腕と着地する。

(そうだ、こうでいいんだよ)。

 相手はスライディングの名手。長い距離を滑ってきた。日本では対戦できなかったレヴェルの守りだ。

 こういう相手とぎりぎりの勝負がしたかった。

 確か先制点を奪ったときは左サイドにいたはず。こいつがマークしていたらシュートは撃てなかったかもしれない。



 アルゼンチンの人数をかけた攻撃。1度の攻撃が駄目でも日本がクリアしたボールをひろい2度、3度と攻撃を繰り返す(波状攻撃というやつだ)。

 ようするに『ずっと俺のターン』をしたいのだろう。そのためにも日本にボールをつながせたくない。

 日本の選手が前線に長いボールを送ってもアルゼンチンのDFはパスカットにくる。

 日本が引いて守っている以上選手間の距離は近い。中盤でもパス回しはできない。



 青野さんが金井を選んだのは、彼が相手を抜く『しかけるドリブル』ではなく中盤で『運ぶドリブル』を得意とした選手だからだ。

 ボランチだからといってパス一択で通用するわけではない。

 状況によってはボールを運び、味方が良いポディションに動くまで時間をつくらなければならない。中盤に相手選手がいないのならピッチを縦断して長い距離を走ることだってありえる。

 金井の特長は素早い身のこなしと状況判断。本人が言ったようにしかけるドリブルは通用しない。だが狭いエリア、奪いにくる相手ならこいつのドリブルは使える。


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