表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第1戦/幸先
13/112

逢瀬博務その1

 逢瀬博務(おうせ・ひろむ)

 所属チーム/崩山高校

 適性ポディション/センターバック・サイドバック

 背番号/3

 利き足/右

 学年/高校2年

 出身地/長崎

 身長/181cm

 体重/73kg

 呼称/ヒロ・ヒロムンなど




 逢瀬のことを書き漏らしていたかもしれない。

 逢瀬博務。やや大きい眼が病的で怖い。いつもその眼で何かを睨みつけている。感情を表に出すタイプでその点は相方の近衛とは対照的だ。チームの勝利を第一に考え、そのために仲間に嫌われることも厭わない。そんな性格だからこそキャプテンを任されたのだ。

 性格は実直。悪くいえば愚直だ。代表大好き人間だそうで、今回選ばれたことに運命を感じているとか。



 オーストラリアに到着したその日。

 滞在するホテルの自室に荷物を置き俺は木之本の部屋をたずねる。

 俺は木之本のスマホを借りて、ある試合の動画を見ている。



 赤いユニフォームと白と黒のユニフォームが戦っている。

 攻める赤いチームが悪い形でボールを失う。ハーフウェーラインのすぐ前でMFが奪われた。

 白と黒のチームがすぐに前方にパス。ぎりぎりオンサイドで抜け出したFWがドリブルを開始。

 恐ろしく速い選手だ。前方にはGKしかいない。DFはまだ追いつけない。

 ゴールエリアで1対1になる。FWがシュートを撃つ直前。

 鬼足で追いついたDFが蛮勇。背後からスライディングで自軍ゴールへ向けてシュート(・・・・)を放つ。

 枠を外してクリアする余裕がなかったのだ。そしてFW、GK、DFの3者が激突。

 転がるボールがそのままゴールインする寸前、同じDFがゴールのなかで再度スライディング。ボールを蹴りだす。

 ライン上でゴールを阻止。続けざまに超人的な守備能力を魅せつけた。

 決めきれなかったFWが抗議する横でDFがGKとハイタッチ。

 DF=逢瀬の顔がアップになったところで動画が止まる。



 動画のタイトルは『長崎大会決勝で1年生DFがスーパープレー』とある。半年前の試合だ。

「どうです、逢瀬さんの守りは?」

 イスに座った木之本が覗きこむ。


 俺はベッドに寝ころんだ格好で動画を見ていた。

「スピード任せすぎる。近衛ならFWがボールに追いつく前にどうにかしていただろう」


「近衛さんは頭がいいですけれど逢瀬さんはそうじゃないと?」


「足の速さはとんでもないよ。俺やお前がドーピングしたって無理だ。普通あの距離は追いつけない」


「そういう危ない発言はやめてください。……コンディショニングコーチの槇さんが言ってましたけれど身体能力はA代表に交じってもトップレヴェルだと」


「サッカーじゃない強さだね。どの競技を選んでも大成したかもしれない。今がサッカーの時代で良かったよ」


 木之本は大きくうなずく。「ともかくドリブルに対しては滅法強いです。それはアジア選手権で一緒でした倉木さんのほうがご存じでしょうけれど」


「アジアじゃ敵はいなかった。それよりあいつはどんどん上手くなってった。代表選手の癖に全国大会にでたことないんだよ。全国童貞。代表に選ばれたときは箸ももてない、ただ勢いで守ってるって感じだったのに、駆け引きを憶えて無様に抜かれるようなこともなくなった。レギュラーどころか今やキャプテン……か」


 感慨深い。

 最初対戦したときはカモでしかなかった逢瀬。しかしおよそ1年後の現在、俺でさえあいつの体を張ったディフェンスに苦戦するようになった。あいつの長所は圧倒的な身体能力。そしてゼロに等しかった経験値はナショナルチームで指数関数的に上昇している。


 近衛はすでに完成された選手といえる。まもなくプロデビューを果たす選手だ。

 逢瀬はあまりにも未完成。穴がある選手だがそれが塞がったときどれほどの高みに達するか、それは誰にもわからない。


 俺はこの試合の結果を調べる。

 80分プラス延長戦でも点がはいらずPK戦へ。勝ったのは白と黒のチーム。

 逢瀬の泣き崩れる写真。その両脇に上級生。最後の大会だったかもしれない。だが崩山高校のなかで1番悔しがっているのは逢瀬。

 こいつは異様に責任感が強い。敗因を自分のなかに求めたがる。国内屈指の才能がありながら1番努力し続けた。

 古いタイプの人間かもしれない。鍛錬を信仰し勝利を信仰し青いユニフォームを信仰している。

 天才が一堂に会するナショナルチームだからこそ逢瀬なのだ。

 青野さんの意図が見て取れる。キャプテンは代表の軸だから。


 と、本人が部屋の前に現れる。ここは木之本と織部の部屋だ。

「なんだこっちにいたのか。明日の朝の集合30分早くなったってよ」


「げ」と俺。


「何見てんだ?」


「いや、ちょっと素敵ないやらしい動画をね。木之本が教えてくれたんだ」


「こんな明るいうちから何見てんだよ!」


「こんなにもエロ素晴らしいのに」俺は画面が見えないよう隠し持つ。


「何僕の携帯でエロ動画見てるんですか!」と木之本。


「いやそういう冗談だから木之本。お前はわかってくれよ……」


「冗談……早く死ねよ」と逢瀬。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ