インタヴュー
決勝戦が済みそのあとの長ったらしい表彰式もようやく終了した。
いい加減ユニフォームを脱ぎたかったがそれは許されないようだ。
俺はインタヴューボードの前に立たされた。
テレビでよくみる例のあれだ。協会のシンボルマーク、オフィシャルサプライヤーのロゴ、スポンサーのロゴが無数にしきつめられたあれ。
カメラが眼の前。さしだされた複数のマイク。どれくらいの人がこの映像を見るのだろう。
俺は無表情で受け答える。本当は若干多少ほんの少しビビっていた。
民放のアナウンサーがインタヴュアーだ。40代くらい。もう夜中に近い時刻。だが汗をかいている。
ここはシンガポール。年中高温多湿な気候だ。観戦しているだけでも疲れるだろう。走っているこっちはもっとそうだ。
「アジア選手権優勝おめでとうございます」
「はい」
「大勝した準決勝から一転して僅差の緊迫したゲームでしたね」
「いえ、楽なゲームでした。相手が引いて守らなかったので攻撃は上手くできました」
「最後まで結果の見えない好ゲーム……」
「いえ正直ウズベキスタンの攻撃は全然怖くなかったです。いいDFがそろってますし」
「ええ、ええそうですね。危なげないディフェンスでした」
「いいアタッカーはいましたけど連携使って攻めてこなかったんで。よく決勝まで残ってきたなって思いましたよ」
「はい。倉木選手はそう思ったと、そういうことですね」
「チームのみんながそう言ってましたけど」
「……見事なゴールでした。ボールを奪って中央をドリブルで攻め上がって決めました。スーパーゴールでしたね」
「あれくらいのシュートはいつでも決められます」
「……頭のなかではパスも選択肢にあったのではないですか?」
「いえありません。パスをもらったときスペースがあったので、自分で行くことしか頭になかったです。味方がさんざん外してたんで」
「……本当に見事なミドルシュートでした。GKも反応できませんでしたね」
「止められたらショックでしたよ。でも世界を探せば止められるキーパーもいるでしょう。僕はそういう奴と戦いたいです」
「来年行われる本大会ですね。意気込みのほうはどうでしょう」
「どうでしょうって……出場する以上優勝以外の結果なんて望みません。僕は一番が好きなんで」
「……あ、倉木選手個人としては何か目標はありますか。今大会見事MVPを獲りましたが」
「MVPは倉木選手が1人で獲ったものじゃありません。ゲームではチームメイトに助けられたり助けたりするもので、そのなかで目立ったり気にいられたりするプレイが多かったから、たまたま偶然なんとはなしに俺……僕が選ばれただけです」
「……そうですね。ともかく素晴らしいゲームだったと思います」
「いい準備ができていたのでこういう結果が得られたと思います」
「は、はい。インタヴューは以上で……」
「いや最後にね。チームを代表して言わせてもらいましょう。僕らは世界なんて敵だと思ってないで。本戦でどんな組み合わせになっても勝ち抜けると思っていますので。みなさん応援お願いします!」
「ありがとうございました」
俺=倉木一次は何年も前からこの第1×回U-17世界選手権に出場することを熱望していた。
俺はこの世代最強といわれてきたサッカープレイヤー。小学生のころから頭角を現し国内外の大会で活躍し続けてきた。
2年前、当然のようにU-15日本代表に選出された。
自分は絶対のエース。ゴールを奪うことに関しては誰にも負けるつもりはない。
俺には才能がある。ならばそれを最大限伸ばすことは義務だ。いずれ世界一の選手になって日本代表をあの超有名な大会で優勝させたい。
ならばもちろん、年齢制限がつくとはいえこの世界大会も制しなければならない。
代表チームなのだから当然すべてのポディションに一流がそろう。そしてチームを率いるのはU-17ワールドカップで実績のある青野健太郎監督。最高の環境で実力をさらにのばしていった。
本大会の予選を兼ねたアジア選手権。『絶対に負けられない戦い』というやつだ。
日本代表はグループリーグ3試合とベスト8、すべての試合で大勝し本大会進出を決めた。
準決勝・決勝でも相手を圧倒しアジア王者として半年後の本大会に臨むことになる。
代表に選ばれてからすべてが順風満帆だったわけではない。
何しろ日本で一番競争が激しいチーム。安寧を貪り続けてきたわけではない。
レギュラーを争うライヴァルも現れた。起用の仕方で青野監督と言い争いになったこともある。
それでも俺は攻撃の中心であり続けた。才能に頼らず代表のサッカーに順応することができたからだ、そう自分では分析している。
これは主人公倉木一次を中心に、サッカー男子日本代表が世界大会優勝を目指す物語である。