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作者: 麗琶

蛍って最近じゃあまり見ないですよね。

季節は夏に入り、太陽の強い光が近くの向日葵畑を活気づけている。

太陽が眠り昼間の暑さが消え、涼しげな空気と静かな静寂、淡く光る月明かりとがやって来た時、おばあちゃんは縁側に座って川を眺めて言っていた。


「蛍はね。短い命のその最期に、自分の生きた証を残そうと精一杯光るんだよ。」


私はその川へと足を運び、百合とシンビジウムとカスミソウを飾る。

蛍が迷わないように導くために。

それだけ置いて、歩き出す。これ以上のことは決して介入してはならない。

私たちが関わってはいけないことなのだ。



暗い暗い夜。

僕は飛んでいた。ただひたすら、四方八方へと飛んでいた。

飛ぶ意味も、理由も分からないまま飛び続ける。

仲間たちは気がつけばいなくなっていて、僕はひとりぼっちの闇の中をただ意味もなくさまよう。

時には嵐がやって来たり、再会した仲間が捕らえられたり、急な竜巻に巻き込まれたり。

もう随分と前から飛ぶことに疲労感や嫌気を覚えていた。

それでも飛んだ。飛ぶことを止める方法を知らないから。

成長という過程において濁っていった川や、色んな物質が入り交じって汚染された空気は傷だらけの僕に追い討ちをかけるようだ。

昔は川に行けば沢山の仲間がいたんだけど。

でも今僕の周りには誰もいない。それだけ僕らにとって生きにくい環境になってしまった。

僕らの居場所であった川は濁り、汚染された空気を吸い続けてたら息が詰まりそうだ。

強い風が吹く。

僕の身体は風に逆らえず、流される。

悪い気分ではない。

風に押されて自力で飛ぶ労力がちょっとだけ減るような気がするから。

雨が降る。

雨は冷たくてじめじめしていて嫌いだ。

でも雨が止んだ後の、ひんやりとした澄んだ空気は気持ちが良い。少しだけ空気が綺麗になった気がする。

風に乗ってちょっと羽ばたいてみたり、嵐によってぼろぼろになって上手く飛べなくなったり、葉っぱに乗って少しだけ澄んだ空気を吸って、ちょっと休憩してはまた飛び出す。

目の前すら見えずにただただ、ひたすらこの小さな身体を動かし続ける。

僕はどこへ向かうのだろうか。仲間たちはどこへ行ったのだろうか。

何度もそういった想いが込み上げ、立ち止まる。

意味もなく飛び続ける虚無感と、膨大な孤独感に苛まれては涙した。

昔は仲間たちと一緒に飛んでいた。互いに励まし合って飛んでいたのはずなのだけれど。

いつの間に僕は迷子になってしまったのだろう。

そしてまた飛ぶ。

はぐれた仲間たちと会うために。

段々と息が詰まり、呼吸が苦しくなってくる。

嵐や竜巻に遭遇するたびに僕の体力はすり減っていく。

飛ぶ力だけの体力は徐々になくなっていく。

意識は朦朧とし、僕が飛んだだけ僕の命が確かに消費されてきていたことに今になって気がついた。

飛べばまたひとつ、僕の命は消費される。

それでも飛ぶ。僕は止まる方法を知らないから。


ある日ぼろぼろになって羽を動かす事すら困難になった僕の目に、百合とシンビジウムとカスミソウが映った。

それを見たとたんに、僕の身体は軽くなった。

不思議とずっと感じていた疲労感や嫌気といったものは一気になくなった。

僕はその飾りに導かれるまま川へと飛んだ。

今までとは全く違うひんやりとした冷たい澄んだ空気に、透明で綺麗な川。

顔を上げるとそこには沢山の仲間たちがいた。

綺麗に光って飛んでいる。

僕も、最後の力を振り絞っていつもよりずっと、高く飛んだ。

仲間たちと一緒に精一杯光った。


幸せな、朝がやって来た。



夏の終わりに川に飾った飾りを片付ける。

蛍たちは今年の夏も精一杯光っていたのだろうか。

まだ少しだけ夏の暑さが残るこの頃。

ひゅるりと涼しい風が吹き抜けていった。

ここまで読んで下さった方に心から感謝します。麗琶です。

相変わらず独自の世界を展開していて、なんなんだよって感じですね。

この話は一応夏の終わり頃にということで8月31日に投稿となっておりますが、これを書いている時はガンガンに暑い真夏日なのでひいひい言いながら書いてます。夏の終わり頃と言っても8月31日もまだまだ暑いんだろうなぁとも思います。

皆さんは蛍を見たことがありますか?

私は見たことがないんですよ。

昔は私の近くの川とか田んぼとかにもいたらしいのですが、今は全くいませんね。

変な話はここまでにして、こんな話に付き合って下さった方、本当にありがとうございました!

改めて心から感謝致します。

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