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赤の国  作者: 葵野菫
3/4

ジアナムの少年2

更新は不定期気紛れ、書けるときに書ける分しか書きませんのでご了承ください。

また、現実のいかなる国家、団体、地名、人物、出来事と関係はありません。


一応残酷描写ありにはしていますが、それほど過激にはならないと思います。


また、誤字脱字があれば遠慮なくお知らせください。

彼には同じ歳の親友がいた。

その男の名前を「ガイラン」という。近所に住む幼馴染みでもあった。

ガイランは、彼と違って、不真面目極まりない若者だったので、人々はなぜ生真面目な「フィー」とこれほど親しいのかしきりに不思議がったが、本人たちにとってはこの上ない相利共生、そして唯一無二の関係だったのである。


「お前は真面目過ぎるんだ」

と、喧嘩騒ぎの夜、仕事を終えたフィーと賑やかな道を歩きながらガイランはがみがみ言った。

「ちったぁ融通とか、覚えたらどうだ」

「嫌だよ」

と、穏やかさを取り戻したフィーは、きっぱり答えた。

「人には誰しも、譲れないものがあるって言ったのはお前だろう。俺にとっちゃ、じいさんがそうなんだよ。分かっているだろう」

「だったら安売りするな。最後の最後に残るから、譲れないものだっての」

「違うよ。いつでも許せないから、譲れないんだ」

「頑固者め」

「何とでも」

ガイランは溜め息を吐いた。

「俺の苦労も考えろ」

穏やかな笑みが、消える。

「それは、本当にすまない」

「どいつもこいつも、てめぇが怒った時は俺を呼べば良いと思ってやがるのさ。こんだけしてやってんだ、言葉以上の見返りは欲しいもんだなぁ。今度酒場に付き合って貰うぞ。でなけりゃ次から警吏を呼ぶからな」

フィーはふと表情を和らげる。いつものこの、親友の気遣いが有り難かった。

「次」は、千年の彼方に等しい。

「酒に弱いくせに、またお前を家まで担がせようってのか。大体、前もじいさんに叱られただろうが」

もうその声に棘はない。ほとんど戯れだった。

「体がまだ出来てないのに、酒なんぞ飲むなってな。流石お前の養い親だな、頭が固ぇよ。古き良き時代ならまだしも、今じゃあ十のガキも酒の味くらい知ってるっての」

「お前のみたいなやんちゃなガキはね」

「ははっ」

とガイランは底抜けに明るく哄笑した。

「こいつ!言いやがったな!」

「おあいこだ。お前、俺とじいさんのこと、石頭って言っただろ」

と、にやにやしながらフィーは返す。

「逃げるなよ、事実だろ」

と、親友でなければ許されぬことを、ガイランはいとも容易く言い放った。

「敵わないな」

と、親友でなければ許されぬことを、フィーはあっさりと受け入れた。


「ただいま」

彼が薄暗い家の奥へ呼び掛けると、しわがれた応えがあった。

「お帰り」

家は狭い。彼はしわがれた声の元へ行くまで、大した労力を必要としない。

「遅くなってごめんよ。すぐに夕御飯の準備をするから」

短い廊下の先の、暗い奥の部屋には、みずぼらしいベッドがひとつ。四方の壁は全て棚になっていて、古い書物や、ガラス器具や、不思議な紋様や形の置物が、ぎっしり詰まっていて、床まで溢れだし、狭い部屋をさらに狭く、そして居心地よくしていた。

「なあ、フィー」

みずぼらしいベッドには、しわしわに萎んだ老人がひとり。

「いつもお前に苦労をかけて、すまないね」

「どうして」

老人のいつもの言葉に、彼もいつもの通り、にこにこと答える。

「みなしごの俺を育てて、しかも勉強に体術まで教えてくれたじいさんの苦労に比べたら、こんなの苦労に入らないよ。いや…恩返しにも足りないや」

彼は、かまどに薪をくべた。高山地帯のこの国では、日中も火を絶やせば酷く冷え込むのだ。

老人に向けた背に、痛いくらいに悲しい視線が突き刺さるのには、知らぬふりを決め込む。

「フィー、俺が死んだら、いや、そうでなくても、出来るだけ早くこの国を出るんだ。ガイランも一緒にだ。こんなろくでもない国に、いつまでもいてはならん」

「縁起でもないことを言わないでおくれよ」

彼は穏やかに、そしてきっぱり拒絶するのだ。

「俺はまだガキだからさ、じいさんがいない生活なんて考えられない」


それは、苦し紛れの言い逃れでもあった。


「じいさん、今日のお粥は肉入りだよ。しかも上等の鹿肉ときた。とっとと作っちまうから、待っててくれよな」


そう良いながら、彼はごくごく自然な動作で右目の包帯を解く。

部屋の薄暗い明かりにも、鮮やかに映える赤色が、その下からにわかに現れた。

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