序章
更新は不定期気紛れ、書けるときに書ける分しか書きませんのでご了承ください。
また、現実のいかなる国家、団体、地名、人物、出来事と関係はありません。
一応残酷描写ありにはしていますが、それほど過激にはならないと思います。
また、誤字脱字があれば遠慮なくお知らせください。
昔、ある王国があった。自然の城塞、大山脈の中の小さな王国。人々は山羊と羊と共に、ひっそり山肌にしがみついて生きていた。
その王国には、当然のことながら神がいて、神殿があった。王族は天地を作り、外敵に侵されぬこの国を善人に授けた神々の子孫だと信じられていた。
王族は、皆赤い目をしていた。宝石のような、美しい目だと人々は褒め称えた。その赤い目は、純血の証だとされていた。純血を守ることが王家の誇りだった。
長い長い時間、閉ざされた国のその神話は揺らがなかった。
彼はその国に訪れた旅人、否、難民の子だった。遥かな西の国で凄惨な戦が起こり、先祖代々の畑も捨てて逃れて来たのだ。その西国は大陸を横断する大街道の中途にあったが、横暴な王が大街道に兵士を置いて、逃げる人々を片端から捕らえて罰を与えたので、彼の両親は夜中、道なき道を伝って国を逃れ、大街道を外れたこんな辺境の国へやって来たのだ。
この若い夫婦は幼い子供を連れていた。それが彼である。 ひとまず三人は下町の安宿に泊まった。その時同室になったある老人は、砂塵まみれのフードを脱がされたその子供を見て、あっと声をあげた。
「悪いことは言わねぇ」
と、老人は困惑する夫婦に言った。
「すぐにこの国を出た方がいい。それから、外へ出るときは、その子のフードを絶対に脱がせちゃあいけねぇぞ」
その子供、つまり彼の目は、左が平凡な焦げ茶色、そして片方が鮮やかな赤色をしていたのだ。
「何故ですか。国を捨てた私どもには、もう行くあてがないのです」
夫婦は西の国の戦と、横暴な王のことを打ち明けた。老人はそれでも、と首を振り、声を低めて、この国の王家と神話の事を夫婦に教えた。夫婦は蒼白になって、幼い子供を抱き締めた。
「そんな、この子は間違いなく私どもの子です。この子が生まれた時、お医者様は『目に黒い色がつかなかっただけだ。たまにこういう、色の薄い子は生まれるのだ。何の特別な事もない、大きくなったら黒くなることだってある』と仰いました」
「西の国は医学が進んでいると聞くから、それは間違っちゃいねぇだろう。ただ、この国の奴らはそんなことなど分からん。あらぬ疑いが掛けられるぞ」
と、老人は言い、不安げな子供にフードを被せた。
「とにかく、明日にでもこの国から出てしまいな。尾根伝いに大街道へ出る道がある。そこから東へ行った方がいいぞ。流石に追手はかからんだろう」
夫婦は老人に、床に頭がつくほど深々と頭を下げて礼を言った。彼らは善良な人間だったのだった。
ところが、翌朝、夫婦はベッドから起き上がれなかった。
元々小さな畑を耕し、生涯そこから離れることのない農夫と農婦だったので、慣れない過酷な長旅が祟って、とうとう体を壊してしまったのだ。
親切な老人は夫婦を看病し、子供の面倒を見てやった。フードを被ったままの子供は、昼も夜も付きっきりだった。
そして、僅か数日の後、夫婦はあっけなく死んでしまった。
子供は天涯孤独の身になってしまったのだ。
泣きわめく子供に、老人は言った。
「可哀想に、可哀想に…」
そして、少し明るい顔をして、言った。
「坊主、俺と一緒に来んか」
どのみち子供には、他に選択肢が無かったのだ。
これが。始まり。