魔術師二人
某日──夜
冬の初め、僕達は仕事で須原町にやって来た。最も、僕の隣に居る女性はご立腹のようだが。
「全く、教会も面倒な仕事を押し付けてくれる。」
どうやら、まだ愚痴を言い足りないらしい、本日20回目の愚痴に入りそうだ。
「また愚痴ですか?紅葉さん?」
「愚痴の一つや二つ、言いたくもなるだろう。只の異変がないかの調査だぞ?確かに、霊だのなんだのは沢山居るらしいが、どうも聞けば殆どが退治する必要の無い、人間に軽い悪戯する程度の低級のモノらしいじゃないか。おまけに、共生してる奴迄居るらしいって話だ。化物退治なら渋々ながらも納得もいくものの、調査なら調査で調査隊に任せておけって話だ。」
こんなにご立腹なのは、する必要の無い仕事だったから、というのもあるだろう。簡潔に言えば、近くに他の仕事の帰りで居たからついでに任せられた、ということだ。
「まあ、近くにいたんだし仕方ないですよ。誰かがしなくちゃいけなかった事だし。観光でもして、帰りましょうよ。」
そりゃあ、僕だって余計な事はしたくないが、ここで、そうですね!帰りましょう!なんて言うわけにもいかないので取り敢えず当たり障りの無いことを言っておく。
「ふん、まあいい。ウチもそんなに余裕は無いからな。臨時収入が入ったということで我慢しよう。クソっ、いつもだったらこんな面倒な仕事は何かにつけて断れるんだがな……まさか、帰りに依頼が来るとは……」
余裕が無いんだったら断らなきゃいいのになぁ、とは思っても突っ込まないでおく。取り敢えず今は、先の話だ。
「それで、どうします紅葉さん?」
「そうだな……まあ、取り敢えず二週間程様子見で良いんじゃないか?危険なヤツが居るなら、その期間内中に何か仕掛けるだろうからな。情報を集めるために、使い魔を2、3匹出しておこう。」
「確かに、そうですね。じゃあ、今日はここで。」
「ああ、じゃあな。」
そうして僕は、教会が取ったホテルへと向かった。基本的に任務先の宿泊場所は教会が用意してくれるのだ。紅葉さんは別で、何故かというと僕は教会の人間では無く紅葉さんの事務所の事務員兼弟子、というとポジションに当たるからだ。つまり、ホテルは自費なので教会の用意するホテルなんぞ薄給の僕には高くて泊まっていられないのだ。
とっととホテルに入って暖まろう、と思って早歩きになる。
そんな時、一人の高校生位の女の子がこちらに歩いてくるのが見えた。彼女は、僕の顔をチラっと見てそれから興味が無いようにまた俯いてしまった。
横切って、家出か何かと思って話し掛けようと振り返ると、もう彼女は居なかった。どうやら路地に入って行ったらしい。
──思えばそれが彼女と、最初に出逢った時なのだろう。