十一月
初めの週、やっと女の子に会えた。
「久しぶり。どこかにいってたの?」
「いずも」
いずも、って出雲? 島根? そんな遠くまで行っていたのか。家族旅行だろうか。一か月も?
何か深い事情があるのかもしれない。この話題には触れないでおこう。
「そうだ、名前」
「しらやまひめ」
俺の言葉にかぶせるように返答があった。まるで質問がわかっていたかのように。たまにこの子は鋭いときがあるな。いつもはぼんやりしているのに。不思議な子だ。
しらやま、って苗字の家、この辺にあったかな。後で母さんに聞いてみよう。
「はい、ひめちゃん。うちで焼き芋してきたんだ」
一緒に焼き芋はできなかったけど、なぜか母さんがやる気満々で、大量の焼き芋ができた。女の子にも分けてきなさいということで、ひとつ持ってきたわけだ。いるかどうかは賭けだったけど。
いつも通り階段に腰掛ける。ひめちゃんも寄ってきた。
「おいしいにおい」
子供にはまだ熱いかもしれない。包んでいたアルミホイルをとって渡そうとする。ひめちゃんは首を振りながら、受け取ってくれなかった。
「あ、焼き芋嫌いだった?」
「嫌いなものは、無いよ」
そう言いつつも手に取る気配はない。お腹がいっぱいなのかな。しばらく焼き芋を見つめていたひめちゃんだったが、また一人遊びに戻ってしまった。仕方ないので二人分を食べる。
渡そうとした焼き芋は甘くなかった。さっき食べたほうは、さすが旬だと思うほどだったのに。あまりおいしくないから、食べさせなくて正解だったかも。
同じ場所で買っても味に差があるもんなんだな。持ってきたお茶を飲みながら、そう思った。
「飲む?」
「そこに置いといて」
こちらを見ているのに気付いて声をかける。返答を聞いてから、水筒の蓋にお茶を注いで階段に置く。うちは麦茶に砂糖を入れる。少し甘くて飲みやすい。俺が子供舌なだけかもしれないけど。まあ、これなら子供でも飲みやすいだろう。
結局、ひめちゃんは麦茶を飲んでくれなかった。ジュースのほうがよかったかな。それとも飲み回しがまずかったか。冷たくなったお茶を飲み干して──これも甘みがなかったが、冷えたせいだろう──帰り支度をする。
「またね」
「お兄さん、ありがとう。おいしかったよ」
食べても飲んでもいないのに、変なの。彼女なりのお礼なのかもしれない。子供だからちょっと変な使い方になっちゃうだけで。久々に幼い一面を見た気がする。久々? 初めてかもしれない。
また少し、仲良くなれた気がして、嬉しくなった。
もうひめちゃんと会って、三か月もたったのか。最近の成績は右肩上がりで、志望校に関してはもう不安がないくらいになった。それどころか、もうひとつ上を目指せそうだ。県外に行かなくてすむかもしれない。お参りの効果かな。縁結びだけど。もう一頑張りだ。