九月
いつ神社に行っても、女の子はいた。
日曜日はお参りをして女の子と話すのが習慣になった。話すといってもほとんど一問一答で、会話が弾むことはなかったが、なぜか心地よい時間だった。俺自身があまり人付き合いが得意ではないからかもしれない。女の子は楽しんでいるのだろうか。もしかしたら自分の遊び場に入ってきた部外者を快く思っていないのかもしれない。いや、いつもあちらから話しかけてくるから、そんなことはないか。
「ここは何の神様を祀っているんだろうな」
「知らないでお参りしてたの?」
女の子が少し驚いた顔をした。珍しい。
「縁結びだよ」
さすが管理している家の子だ。知ってるんだ。ってか、縁結びって……。学業成就ではなかったか。縁結びの神様に合格願ってたなんて、神様も困惑していただろう。
「あと、縁切りも。悪い付き合いを断てる」
「そうなんだ」
縁結びも縁切りも俺には関係ないなぁ。友人はほぼいないと言っていいから悪い縁なんてないし、好きな人も特にいないから結んでほしい縁もないし。
知ったからと言って、お参りをやめるわけじゃないけど。成績は上がってるし、ゲン担ぎだ。心の支えになってるからね。
「もう来ない?」
「いや、来るよ」
「よかった」
女の子はそう言って、しゃがんで地面を見始めた。アリを追っているらしい。いつもこんな感じだった。少し話すと、女の子は一人遊びを始める。そうなったらもうやることはないから帰る。十分ほどの逢瀬、とかカッコいいこと言ってみる。
なんとなく、今日は帰る気にはなれず、女の子を見ていた。
暦の上ではもう秋だが、相変わらず暑い。それに対して木々に覆われているここは多少涼しい。帰るために暑い場所に移動するのが嫌なのかもしれない。
もうすぐくる連休は補習で消費してしまう。受験生には季節行事など関係なく、ただ本番に向けて勉強あるのみ。遊んでしまえばその分遅れる。志望校は有名なところではないけれど、そこそこの偏差値で、今の自分だと合格できるか微妙なところだ。努力を怠ることはできない。
……帰って課題しなきゃ。
女の子に一言かけて神社を後にする。
「勉強、頑張ってね」
「ありがとう」
あれ、俺勉強するなんて言ったっけ? そういえば会ったとき、合格できますように、って口に出して言ったような。聞かれたら恥ずかしいし、今度から言葉にしないように気を付けよう。