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小学生の帰宅

その日の夜、春香さんを引き連れた私は、自宅へと帰ってきた。



「ただいまー」



「おかえり」



「ひっ………」



お母さんが見えた途端、彼女の表情がうってかわって暗いものに変わる。



「どうしたの?私のお母さんだよ」



「優華…。新しいお友達?」



「……うん。そう。友達。私の部屋に行くから」



「ん。わかったわ」



「………おじゃま…しま、す」



春香さんが怯えているのは、見るからにお母さんに対してだ。


お母さんと視線を合わせないようにしているのか…しきりに壁を見つめて、距離を取っている。


しかも私の服の裾を挟んで、ぶるぶると震えているのだ。



「………どうしたの?」



「う、ううん…、なんでも、なんでも、ない、から」



どう見たって、なんでもないわけなかった。


あまりにも怖いのか、歩くことすらできなさそうだ。



「……お母さん。悪いけど、ちょっと向こうに行ってて?」



と、お母さんに耳打ちし、遠くにやる。


すると、ようやく落ち着いたのか、彼女はだいぶ身体の震えは止まったようだった。



「どうしたの?大人の人が怖いの?」



「…………うん…………」



大人が怖い……そんなことあるのか。


私にはよく分からなかった。


確かに、知らない大人なら怖いけど、あれは私のお母さんなのだ。



「そっか……。でもまぁ、今日は私と一緒にお話ししましょ。あなたのこと、もっと知らなくちゃ」



彼女を守ると決めたのだから。






「お母さん。春香さんの前に出るの、やめてもらえない?」



「えっ、どうして?」



「…………実はね。春香さん、いじめを受けていて……」



「いじめ…?」



「そう。そのせいで、ちょっといろんなものに臆病になってるみたいで……」



「………………」



しかし、お母さんは納得のいかないような表情を見せた。



「私も何人か、あんな感じの子受け持ったけど、別にみんながいじめを受けてるわけじゃなかったわ」



お母さんは実は、結婚する前まで小学校の教師をしていたのだ。


そのため、実はこういった子供たちとの関わり方にも詳しい。



「どっちかって言えば……。でもまぁ。気のせいかもね」



「…………?」



「さ、お友達を待たせたら悪いわ。行った行った」



私は無理矢理急かされ、自分の部屋に行かされたのだ。


お母さんはいったい何を言おうとしていたのか。


何を思ったのか。


そのときは何もわからなかった。











「………あれは、いじめをされた子の反応じゃない。虐待をされた子の反応だった…」



親からの虐待を受けた子供は、大人と接することを極端に拒否する場合がある。


大人を怯え、できる限り大人の目に触れず、大人の感情を波立たせないようにしているのだ。


あともう一つ、彼女の目だった。


できる限り、私の感情を荒立てまいと、こっちを探るような目をしていた。


何度も経験していたからこそ、察することができるこの子の状況――――


娘一人に負うことができるのか。


心配ではあるが、娘にはどうやら心を開いているようにも思える。


こちらはそれとなく、彼女たちの力になれるようなことをしていこう。


一人静かに、そう決断した。











「え、と……長島さん…」



「優華でいいよ。何?」



「さっきの、ひとは…?」



「ああ。私のお母さんだよ。あれ?そう言ったじゃん」



「あ、う、うん……そうなんだけど……」



春香さんはしきりに怯えていて、リビングのことを気にしていた。


私のお母さんは優しくていい人だということを、私も少し恥ずかしかったが説明した。


しかし、彼女は、納得してくれたような感じではなかった。



「なんにせよ。今日はうちで泊まっていこう。あなたのことも、もっと話してたいし」



「……ありがと」



彼女は遠慮がちに、小さくお礼を言った。



私もくすっと笑いながら、言葉を返したのだった。

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