表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレナ~Gunner Doll~  作者: あいぎす
1/2

プロローグ

 鼻をつくのはカビの匂い。人の痕跡が消えて十数年経っているそこは、自然が好き放題に勢力を伸ばす無法地帯。

 耳に届くは幾人かの足音。音をたてないように訓練されていても、床に散らされた有機物、無機物、あらゆる物の破片を踏んでは、完全に消し去るのは困難である。

 眼に映るは一体の標的。天窓から差し込む月明かりを頼りに、乱雑に置かれた資材の隙間から相手の動向を覗く。

 壁沿い、床から十メートルほどの位置に設けられたキャットウォークに潜み、息を殺す。

 標的はゆっくりとフロアを移動中。予想していた動きだ。

 右手は腰もとのシースケースに差し込まれた柄に。左手につけた時計の時間を確認する。

 カウントダウンタイマーは十秒を切っていた。

 特に、人間の声に敏感な”奴ら”である為、時間で行動を開始するのがチームの鉄則となっていた。

 三秒・・・目下の標的に視点をロックする。同時に、肺一杯になるよう息を吸い込んだ。

 二秒・・・屈み、折り曲げている両足に力を込め、爆発的に飛び出すだけの力を溜める。

 一秒・・・視界の端、標的正面の障害物に隠れているバーディーが火器を構える様子を捉える。

 臆することはない。何も、今回が初めての作戦ではないのだから。

 屋内に響き渡る重機関砲の爆発音。暗闇を照らす、オレンジのマズルフラッシュ。それらを皮切りに、彼はキャットウォークから飛び跳ねた。

 身体を投げだす。その真下では、二つの人影が真正面から銃撃戦を演じていた。

 左手、二十メートル程先でライフルを構えているのはバーディー。組んでから三年になる、気心の知れた野郎だ。

 そして、飛び降りる着地点でバーディーと撃ち合っているのが標的だ。

 サラリと流れるブロンドに小柄な体。それらは、身に付けた真っ黒なプロテクタースーツと、片手で扱うアサルトライフルとはとてもアンバランスで、忌々しく映る。


「アルト! 降りるよ!!」


『おうよ! 頼んだぜ!』

 

 インカムからの声でバーディーからの銃撃が止む。同時に、右手で掴んでいた柄を引き抜く。

 チリチリと大気との摩擦音を上げる青白いナイフ。

 落下のスピードと勢いを持って、それを標的の背中に突き立てる。

 バチン! と大きな火花を散らし、標的はまるで糸の切れた人形のように地面に倒れこんだ。

 まずは一体。


「一撃とは見事だねぇ。そんじゃあ、他の連中のバックアップに行くぜ、リョウゴ」


「オーケー。さっさと終わらせて帰ろう」

 

 バッテリー切れを嫌い、すぐにナイフをケースにしまう。リョウゴにとって、これが唯一の武器であり、命綱だ。

 二百×二百メートルの敷地面積を誇るこの廃工場では、四体の標的を相手取っての作戦が展開されていた。

 リョウゴとアルトのチーム、”ガルム”は工場の一番南側。そこから北に等間隔に三つのチームが広がる、という構図だ。


「ガルムクリア。繰り返す、ガルムクリア。各員状況は!」

 

 錆だらけで、所々が朽ちている巨大なラック群をすり抜け、発砲音の鳴り響く場所を目指す。


『こちらスピアー、救援を頼む! 緊急だ!』


「ガルム了解! 急行する!」

 

 要請を受け、アルトにアイコンタクトを送るとリョウゴが先行する。

 崩れる心配の無さそうなラックを視認すると、足と手を引っ掛けて一気に駆け上る。野生動物もかくやという動きは弛まぬ訓練の賜物だった。

 ラックからラックへ飛び移り、一番北側で行動中のスピアーの元に駆けつける。

 その最中、飛び越えてきた他のチームは順調に作戦をこなしているようであった。

 最後、ラックから壁に張っているパイプに飛び移ったところで、目標を確認する。

 ショートカットに、スラリとした長身。右手には、凶々しい鉄塊であるミニミ。とても厄介なタイプの標的であることを瞬時に察知する。

 作戦はさっきと同じ。気付かれる前に近づき、頭上から飛び降りてコアを一撃。

 早速行動に移ろうと、ナイフに手を伸ばした・・・その時だった。


「逃げろ、リョウゴ!」

 

 危険を知らせる声がフロアから向けられる。

 理由ははっきりとしていた。

 完全には視認できていなかった、標的の左腕がリョウゴの方に向けられていたからだ。

 握られているのは、グレネードランチャー。十分に射程距離である。


 「っ!」

 

 リョウゴがその場から飛び降りた直後、今しがたへばりついていた壁は爆炎に巻かれ、粉々に吹き飛んでいた。

 転がり込むように遮蔽物に身を隠すと、そこにはアルトとスピアーの片割れの姿があった。


「間一髪だったな。ちょっとは俺に感謝しろよ、リョウゴ」


「あ、ああ、感謝するよ。マジで・・・」

 

 心臓がバクバクと全身を打ち鳴らす。あれだけ死線に近づいたのは、ここ最近ではさっきのが一番だった。とにかく、落ちつけようと深呼吸を一つついた。


「ヘビーガンナーだ。おまけにフィールド装備で、手持ちの武器じゃあ手に負えない」


「ちぃ! 電磁フィールドで弾丸が逸れるなら、ゼロ距離戦闘の一択だな。そういや、おたくのストライカーはどうしたんだ?」


「あそこで寝てやがるよ! しくじりやがって、そのまま掴まって一撃だ!」

 

 標的の足元に転がっている人影を一瞥する。

 リョウゴと同じ装備品。ストライカーという役回りの証である。


「俺が近づいて仕留める。援護を頼む」


「おいおい、冗談だろ? グレネードとミニミ装備のじゃじゃ馬だぜ? 他の連中がバックアップに来るまで待った方が賢明だろう」


「その通りだ。数で押せば、安全に倒せる相手だろう。ムリする必要はない」

 

 リョウゴの提案に対して、二人は断固反対の様子。

 影から覗き見ると、標的は何やらリョウゴ達の頭上を見渡している様子だった。


「たぶん、そんな時間は無い。上を見渡して角度算出してるみたいだから、グレネードを撃ち込まれるぞ」


「マジかよ!? ・・・仕方ない、強硬突破といくか。アンタは俺と援護射撃だ。リョウゴ、ステルスの効果時間はどれくらいだ?」


「ヘビーガンナー相手だったら、二秒ってところかな」

 

 腕時計のモード選択スイッチを押す。

 ”Stealth”という表示に切り替えれば、あとは実行を押すのみだ。


「良し、そしたら合図で飛び出せ。弾は散らさないように気をつけるが、出来る限り壁際を走れよ」


「うわさ通り、無茶をする二人だな。ガルムは」

 

 それぞれが位置につく。

 アルトとスピアーは銃を構えて遮蔽物の淵へ。

 リョウゴは壁際、一直線に目標に向かえる位置へ。

 準備が整ったのを確認すると・・・


「行け!!」

 

 アルトの号令で一気に飛び出す。同時に、腕時計の実行スイッチを押した。

 姿勢を低くとり、全力で地面を蹴飛ばす。

 ほんの数センチ横は、味方の銃弾と敵の銃弾が交差する死の淵。生きた心地はしないが、それはいつものことである。感覚はもうとっくに麻痺していた。

 二秒の時間で、標的との距離は三歩のところまで詰めていた。ここまでくれば、相手の姿をはっきりと視認することができる。

 色白で、顔立ちの整ったグラマラスな肢体の女性だった。けれども、美貌を纏ったその顔に張り付いているのは、まるで能面のように冷たい表情。

 感情というものが”無い”故に、それらには表情というものも存在し得なかった。

 突然、思い出したようにリョウゴに顔が向けられる。

 ステルスというのは、電子策敵を無効化する装置のこと。機械を相手取ったときにのみ有効なステルス装置。

 それの効果が切れて、ようやく相手はリョウゴの存在に気がついたのである。

 リョウゴはナイフの間合いに入っている。そこは、もうミニミの懐。銃撃を受ける危険はないが・・・決して油断できる間合いではない。

 右腕が薙ぎ払われる。横腹をめがけて襲いかかる砲身に左手をかけて、凶器をかわすと共に一気に身体を宙に跳ね上げる。

 焼けた砲身を触ったせいで左手に激痛が走るが、今は気に留めている場合ではない。

 ムーンサルトの要領で身体をひねり標的の背後へ。

 引き抜いていたナイフを、さっき仕留めた標的と同じ場所に突き立てた。






「回収できたのは三体か。そのうち二体は俺たちの手柄、と。今日もご苦労だったねぇ」


「最後のはちょっと危なかったけどね。まぁ、お互いに無傷で良かったよ」

 

 作戦を終え、輸送用トラックに揺られながら、互いの無事を喜び合う。

 目の前の担架には、先程リョウゴが機能停止させた二体の人型が、まるで眠るように横たわっている。

 ”ドール”と呼ばれる戦闘機械との戦争が始まってから、もう十年近い歳月が経過していた。

 もともと、ドールというのは人間が開発したアンドロイドであり、当時は人間の生活補助を目的とした製品として製作、販売されていたものである。

 それが人間に反旗を翻し、無尽蔵に製造されたドールが武装して襲いかかってくる正確な理由を、リョウゴはもとより、こうして戦っているものの大多数は分かっていない。

 戦争の当事者は全員いなくなってしまい、相手側に問おうにも、その相手がどういったもので、何が目的で、ドールがどこから攻めてきているのかも良く分かっていないのだ。

 生産ラインを統括していたAIの暴走。大陸の掌握を狙う何者かの陰謀。所説は様々であるが、どれも確証はない。

 ただ、襲いかかってくる敵を迎え撃つ。そうして、少しずつでも情報を集めて状況の打開に努める。

 それが、今生き残っている人々にできる唯一の事だった。


「ヘビーガンナーを仕留めたのは大きかったよな。こいつをリプログラムしてバーディーにすれば、かなり心強い味方になるぜ? 見た目も、まぁイケてる感じだしな」


「アルトはドールと組むのに抵抗とかないのか? 急に襲いかかってきたらどうしよう、とか」


「そりゃあ、無いこともないけどな。でも、戦力としては一級品だろう? 暴走事例も今のところは無いし。上層部も、これからはドールとのペアに切り替えていく方針みたいだから、いつまでも疑ってられないぞ」

 

 人間がペアを組み、一体のドールを相手取るというのが今の状況であるが、人員確保を見越して確保したドールを改修、人間と組ませるのが段々と浸透してきている。

 先程、リョウゴとアルトのチームであるガルムと共に出撃していたチームは実績を伴っている為に後回しにされていたが、もうまもなくドールとのペアに再編される予定だった。


「お前とのコンビも長かったよな。ドールと組んでからも俺のこと忘れないでくれよな」


「忘れない、忘れないから! 気持ち悪いからくっつくなって!!」

 

 先の見えない戦い。明日は命が無いかもしれない。

 しかし、失うものなど何もなく、自分がいなくなって悲しむ者もいない。

 そういう状況もあって、リョウゴはストライカーという立ち位置を選んでいた。

 ・・・つまり、早く死ねる場所を無意識に探していたのかもしれなかった。

 

 

 

思いつきで、本当に思いつきで書いてしまった作品です。

どんだけの内容になるのかは神のみぞ知る世界!

好き勝手やってしまったが後悔はない!!


更新ペースは遅くなってしまうかもしれませんが、

それなりに楽しんでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ