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供贄の民  作者: RK
2/2

遭遇 02

 * 弐 *


 目を覚ますと見慣れた天井が視界に映った。

 勢いよく体を起こす。タオルケットが体から落ちた。

 体は汗でビッショリと濡れていて不快感がすごい。あれは夢だったのだろうか?いつの間にか寝入ってしまって見た一時の悪夢だったのだろうか?

 息を吐いて立ち上がろうとする。その時に体に痛みが走る。まるで何かにぶつかった後の打身のような痛みだ。

 そして、鼻の奥に生臭さが蘇る。あれは夢などではなかったのだ。

 だが、説明できないことがある。僕は何故自分の家の自分のベッドで寝ているのだろうか?

 と、そこまで考えて気を失う直前の光景を思い出す。あれは誰だったのだろうか?少女のような声だった気がする。

「目が覚めたか?」

 そう、丁度こんな風な。丁度こんな風な…?

「ん、…え?うわぁ!!」

 僕は自分ひとりと思っていた空間に不意打ちのような出来ごとに驚きの悲鳴を上げてしまう。

「…どうした?まだ何処か痛むのか?」

 少女は僕の心配をする。なんで驚いているのか分かっていない様子だ。

「身体は少し痛むけど大丈夫…。…て、どうしてここにいるの!?」

「それは私がお前をここに連れてきたからだが」

 まあ、それはそうだろう。僕がここにいて少女がここにいるなら僕を連れて来てくれたのはあの場にいたこの少女だと考えるのが妥当だろう。なぜ、僕の家が分かったのかなどは問題であるが。

「ちょっと質問してもいい…?」

「ああ、構わない。なんでも聞いてくれ」

 少女は鷹揚に頷く。僕はそれを見て姿勢を正す。

「昨日のアレはなんだったの…?」

「昨日のアレ?」

「ええと、魚の化物…」

 そういうと少女は掌に拳をポンと乗っける仕草をする。何の事だか本当に分かってなかったようだ。

「あいつらは海神の民。水の神を崇め力を得た深海の者どもだ。本来は海の近くにいるはずなんだがどうやら供贄の匂いを嗅ぎつけてやってきたようだな」

 昨日見た物は現実だったようだ。信じたくはないが、この世の中にはあんな化物がいるようだ。

 そしてまた出てきた海神の民という言葉。話の流れからして海の神と書いてわだつみと読むのだろう。それ以外に新しく「くにえのたみ」とやらが出てきた。とりあえずそこらへんに踏み込む前にはっきりさせて置きたいことが一つあった。

「えっと、昨日の化物については分かった」

「そうか」

「それで、君は?」

「私か?」

 自分の顔を指差す少女。それに僕は頷く。

「私は山神の民だ。地の神を崇め力を得た山岳の者だ」

「いや、そういうことじゃなくて…」

 ふと、僕は彼女の名前を知らないことに気付いた。そして自分が名乗っていないことも。一応命の恩人である彼女に何もないのは失礼だと思った。

「とりあえず昨日はありがとう。君が来なければ僕は死んでいたと思う。僕の名前は牲埜和也。よかったら君の名前を教えてくれる?」

 そう言うや否や、少女の頬が紅潮する。なにか怒らせるようなことを言ったかな?もしかすると今さら礼を言われて怒ったのかもしれない。そう思ったがどうやら違うようだ。

「ちょ、ちょっとまて!…牲埜和也というのは本当の名前か?」

「こんな時に偽名なんて名乗らないよ」

 そう言うと彼女の目が泳ぎに泳いで右へ左へと数秒ごとに移っている。本当にどうしたのだろうか。

「こ、こういうのはもっとお互いの事を知ってからじゃないのか…?」

「お互いの事をもっと知ろうとしてるから名前を聞きたいんだけど…」

 そう言うといよいよ彼女の顔は真っ赤になってしまった。何か僕と彼女の間で大きな誤解が生じている気がするのは気のせいだろうか? 

「ちょっと考えさせてくれ…」

 その後振り返ってしまう。ああでもない。こうでもないとぶつぶつ呟いているのが聞こえる。

「そ、そんなに悩むことなら別に無理しないでも…」

 いいよと言おうとしたのだが振り返った少女の表情を見てその気持ちはしぼんでしまった。その表情は決意と羞恥、そしてなによりも照れの色が濃かった。

「私は血風を纏いし者。山神の民であり誇り高き戦士。私は貴方の爪となり牙となろう。辛き時も苦しき時も傍に居る伴侶となることをここに誓う」

 朗々と歌うよう、まるで求愛の言葉のようであった。でも血風を纏いし者って…。

「えっと、それは名前なの…?」

「そうだ」

「か、変わった名前だね…」

「そうか?逆にニエノカズヤという名前の方が変わっていると思うが…」

「まあ、いいや」

 僕は名前の話は切り上げる。とりあえずそれが偽名だろうがなんだろうが呼べればいい。長いのは問題だが略せばいいだろう。

「それで、知りたいことがたくさんある。君が知ってる限りでいいから教えてくれない?」

「それはいいが、なにから話したものか…」

「じゃあ、僕が気になることから質問していくからそれに答えてもらう形でいい?」

「分かった」

 僕は考える。頭の中でぐるぐると聞きたいことが渦巻いているがとりあえずこれだけは聞いておかなければならない。

「今、人が沢山死ぬ事件が起きているんだけどその海神の民っていうのが関係しているのかな?」

「ああ、彼らは人を襲いその血肉を喰らっている」

 魚面のあの鋸のように並んだ歯が脳裏に浮かぶ。背筋に冷たい汗が流れて僕は体を震わせる。

 なるほど、確かにあの歯に食い千切られたらそうなるだろう。だが鋭利な刃物に切り裂かれていたというのはどういうことだろうか?

 あの魚の化物を思い出してみるが爪などの鋭利なものは見られなかった。頭部に触手があったがあれは引き裂くという用途には向いてないだろう。

 そこで、意識を失う寸前の出来事を思い出した。あの時、目の前の少女はあの化物を引き裂いていた。もしかしたら喰ったのは海神の民かもしれないが殺したのは人間、ないし山神の民の可能性もあるのではないか?

 疑念が湧き上がる。だが目の前の少女には助けられた。

「ん…?」

 そこで僕は未だ整理しきっていない情報の中に気になることを見つけた。。

「僕を助ける時、君は僕のことを私のだって言ってたけど…、あれってどういう意味?」

「ん?あれはそのままの意味だ。私が先に見つけた。だから私の物だ」

 さも当然という風に言うがどういう意味だろうか?僕の頭には?マークがたくさん浮かんでいることだろう。顔に出ていたそれを悟ったのか血風を纏う者は説明してくれる。

「海神の民と山神の民は対立している。それはお互いに同じものを求めているから」

「同じもの?」

「供贄の民を探しているんだ」

 クニエノタミとは何だろうか?言葉から考えると海神や山神のように一族を指す言葉なのだろう。

「えっと、供贄の民ってのはなんなの?」

「神々に捧げる生贄の民。それは人間。それもただの人間じゃなくて力を持った人間のことだ」

 クニエ、それは供贄と書くようだ。そして連続殺人事件は供贄の民を探している海神の民が引き起こしている。そして山神の民も供贄の民を探しているということだろう。

それが僕が彼女のものにどうやって繋がるのだろうか?僕の疑問は彼女の次の言葉で解決された。

「お前はおそらく供贄の民だ」

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