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供贄の民  作者: RK
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遭遇 01

 ――これは、僕が過ごした一時の出来事。不可解な事件の体験記だ。

 


 * 序 *


 終業を告げる鐘が鳴り響く。今日の授業はもう終わったようだ。

 長時間の拘束からの解放に気を良くしたクラスメイト達が担任がホームルームの最中であるにも関わらず友人達と話しあっている。

 それを担任はやんわりと注意しつつ、口早に締めにかかる。担任の教師は軽く二、三言注意を告げると号令係に指示を出した。

「起立、礼」

 さようなら、と生徒の唱和が教室を埋め尽くす。そしてすぐに解放の喜びではしゃぐ生徒達の喧騒が生み出された。

 そう、今日は終業式である。学力テストを終え、結果に一喜一憂した生徒達は目前に迫った長期休暇を楽しむために友人達と言葉を交わし合っているのだ。

 そんな中、僕は一人で教室を後にする。

「おう、牲埜(にえの)。またな」

「うん、またね」

 決して友人がいないという訳ではない。挨拶をし時折、遊びに出かける程度の仲の友人はいる。

 だが、帰宅を共にする程の友人はほとんどいないと言う意味では僕に親友はいないのだろう。

 僕はそれを苦に思うこともなく家路に着いた。

 下駄箱で靴を履き替え校舎の外に出ると蝉の合唱がまさに轟いてきた。

 空調のきいた場所から出るとすぐにじんわりと汗がにじんでくる。直射日光のなかを歩いているとすぐに下に着ていたTシャツは汗を吸いこんでびしょびしょになってしまった。

 通学路である商店街を通る。井戸端会議に花を咲かせる妙齢の婦人たちの声は蝉の求愛の大音量にも負けず劣らず耳に届く。

「奥さん今朝のニュースみた?」

「ええ、見ましたわよ。最近は物騒な世の中になりましたねえ。全く、家の子も危なくないか心配だわ」

 どうやら、今巷を騒がしている連続殺人事件の話のようだ。

 6月になってからすぐに始まったこの殺人事件は2週間に1度のペースで新たな犠牲者を出している。遺体は鋭利な刃物で引き裂かれところどころには獣に口ちぎられたかのような損所が見られているらしい。

 昨日はその2週間に1度の日だったらしく今朝新たな犠牲者が発見された。これで5人目だ。

 未だに犯人は捕まっておらず、夜間の外出は控えるようにと注意がなされている。

 だが、自身が被害者になることは確率的に低い。この街には自分以外の人間がたくさんいるのだ。10分程度の外出で自身が哀れな犠牲者になることなどだれも想像するまい。

 

 ――その時の僕はそう考えていた。

 

 夏休みが始まって2週間が経過した。

 両親を若くして失った僕は政府の援助を受けて生活している。

 格安の賃貸を借りて生活をしている身だ。勿論、それらは返還の義務がある。だから必要最低限の出費に抑えるために僕は学校で好成績を維持して優待生として学校に通っている。

 成績だけでなく私生活の様子も考慮されるので宿題などを提出日以降に出すことは許されない。

 僕は予め組んでおいた通りに宿題を終わらせようとしていた。だが、シャーペンの芯が切れていたことに気付いた。

 明日でもいいとは思ったのだがあと少しなので買ってきて終わらせた方がいいだろうと思った。

 時計を見れば20時を少し過ぎたところだ。夜間の外出は控えた方がいいと言われていたがここからコンビニまでは10分もかからない距離だ。

 僕はサンダルを履いて外に出る。生温かい空気が僕の体を包み込む。

 ゆっくり歩いて行く意味もないので少し早めのペースでコンビニへと足を向ける。

 コンビニでシャーペンの芯を購入する。流石に殺人事件のせいで店内には客はまったく居なかった。

 アルバイトの「ありゃとっざいましたー」というやる気のない挨拶を背にコンビニを後にする。

 家に向かう途中、急に空気が体に纏わりついてくるような不快感を感じた。

 なんというか粘着質でねっとりとしている、とにかく気持ちが悪いと思った。

 来た時よりも足早に帰路を辿る。だから足元にあったものに躓いてしまった。

「いて…」

 手をついて立ち上がる。全くなんでこんなところにと思って振り返る。

 そこは本来、マンホールで蓋をされているはずの場所だった。今はそれが開いておりそこからなにかが顔を出していた。

 否、何かではない。僕はそれを理解していたが、理性が理解を拒んでいた。

 なぜならそこには。


 ――魚面をした奇怪な生き物が居たからだ。

 ――ヌラヌラとした表皮を持ち、頭部には触手状の突起が左右に2本ずつ生えていた。

 ――生気の感じられないぎょろりとした1対の瞳が僕の方を向いていた。

 ――魚には一部の例外を除き歯が無いが半開きの口からは鋭利な歯が鋸のように顔をのぞかせている。


 そして、脳が理解すると同時に魚類特有の生臭さが鼻に届く。そして遅れてやってくる恐怖。

 得体のしれないものに対する恐怖。

 未知の者に対する恐怖。

 そして…。


 ――死への恐怖。


「ミィ…ジュ、ゲ…ダァ…」

 魚面の化物の口から音が発せられる。本来人語を話すことが出来ない生き物が人語を無理に発すればこのような音になるのかもしれない。

 僕は魚面の怪物から目をそらさずに後ずさりをする。腰が抜けそうになっていたが恐怖がそれを阻止してくれていた。

 魚面の異形がマンホールから這い出てくる。その瞬間、僕は一目散に走りだす…、つもりだった。

 だが、すぐに壁にぶつかることになる。壁と言うには軟らかくぬるぬるとして生臭かった。

「え…?」

 僕の背後には別の魚の化物が居たのだ。

 生気のない濁った瞳に至近距離で見つめられる。ゆっくりと口が開き鋭利な歯が視界に入る。口からは腐臭が漂ってきて吐き気を催した。

 悲鳴を上げる暇もなく触手に捕えられる。そのまま壁に叩きつけられた。

「グぇあアァ…」

 衝撃に肺から空気が絞り出される。骨が軋み、蛙が潰れたような声が喉から出た。痛みで視界がチカチカした。

 痛みで体に力が入らず、僕はその場に崩れ落ちる。


 ――ああ、死ぬのか…。


 頭によぎる。瞬間、恐怖が体を支配する。


じに…だぐな゛い゛(死にたくない)

 だが、無情にも死は僕を解放する気はないようだ。

 涙でにじむ視界にはマンホールから完全に這い出てきた二匹の魚の化物が僕の方に近づいてくる。

 もうだめか、そう思った時だった。

「ソイツはワタシのだ、海神の民よ。生臭さが移ってしまうだろう?」

 その場に相応しくない少女の声。そして二匹いた化物のうちの一匹が崩れ落ちる。

 生き残った方は先ほどまで見せていた緩慢な動きではなく、俊敏な動きで距離を取る。

「ヤ゛ムァ、ヅ…グァミ、ノダミ、カ…」

 何を言っているか分からない声で呻く。

「そうだ、貴様らの宿敵の山神(ヤマツカミ)の民だ。今一度言う、ソイツは私の物だ。手を出すんじゃない」

 僕の意識は朦朧としていて視界は狭まっていた。そして、はっきりとしない意識で全くわけのわからない会話(?)をされていて完全にパニックを起こしていた。そもそも、半漁人に襲われた時点でパンクしていた頭は完全に容量オーバーだ。

 意識が急速に遠のいていくのを感じる。

 魚の化物を引き裂いた少女と思わしき影と僕を襲った魚の怪人が交錯するのを見届けると同時に、僕の意識は暗闇に堕ちて行った。

 薄れゆく意識の中、少女の声だけが頭に残っていた。

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