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A copy of life

作者: 天川りか



この話はあくまでも私の想像です。

クローンについて間違っていることもあると思います。

了承してお読みください。


――時は2XXX年

人々の間で、新しい人間を作り出すことは容易なこととなっていた――


赤ちゃんのことではない。

もう一人の、同じ人間――クローン人間。


今で言う、電化製品を買う感覚で――いや、それ以上に簡単に――作り出せるものだった。







俺は目を開いた。

ぼけていた世界が少しずつ鮮明になっていく。

数人の髭を生やした白衣のおじさんが俺を取り囲み、口の端を持ち上げている。


「成功だ」


俺は起き上がった。

体中に管が繋がっていて、絡まっている。

数人のおじさん――つまりは科学者達が、それを取りはじめた。


その間に、俺はこれまでのことを思い出していた。


俺は事故に遭ったのだ。

車がいきなり俺の前に飛び出して、避ける間なんて無かった。

避ける間があっても、避けられなかっただろうけれど。


そうそう、それは俺の彼女、絵梨佳のもとへ帰る途中だった。

俺は会社に勤めていて、絵梨佳とは同棲している。

そろそろ結婚を考えているが、なかなか切り出せずに居る。

まぁつまり、俺は仕事を終え、自分の家に帰る途中だったのだ。


そんなことを考えていると、青い服を着た男の警察官が俺の前に来た。


「轢き逃げ犯は未だ捕まっておりません。情報をお願いします」


俺は「はぁ」と適当に相槌を打っておいて、考える振りをした。

そう言えば、あまり覚えていない。

赤い車、だった気がする。


どうしてクローン体が覚えているのかと言うと、

死んだ人間の細胞からクローンを作り、

脳死していない限り、その人間の脳をクローン体に埋め込んでいる。

だから俺は思い出すことが出来るのだ。


もちろんそれは事件解決にとても役立つ。

だからこうして警察が来ているのだった。


「赤い車、だったと思います」


「赤い車、ね……」


その警官は小型の機械――この時代で言う携帯電話を取り出し、

記録を残した。


「他には何か、覚えてませんか?」


警官は睨むように訊いてきた。

俺は一瞬怯んで、しかし気迫に負けじと答えた。


「覚えてません」


警官は唸ると、礼を言い、その場を去った。

俺は一息ついた。

事故のときの状況なんて、覚えている方がおかしい。

しかもそれが交通事故なのだから、尚更だ。

車の色くらいしか分からない。


「あの、ご家族の方が見えています」


一人の白髪の科学者が言った。

俺はその人にぺこりと頭を下げて家族を待った。

扉から入ってきたのは両親だった。


「裕太……!」


母親が甲高い声を上げた。

そして覚束おぼつかない足取りで俺に近寄り、抱きしめた。


俺は裕太。23歳。

母親は、俗に言う高齢出産をした人で、40歳で俺を産んだ。しかも、初産である。

今は63歳である。

父親は母親より2歳年上のはずなので、65歳と言うことになる。


母親に抱きしめられるのも、この年になるとあまり嬉しくない。


「……絵梨佳は?」


俺がそう訊くと、母親は一旦俺を離し、きょろきょろと周りを見た。


「いないみたいねぇ」


「……そうか」


一体、何してるんだ?

俺が事故に遭ったって知らないのだろうか。

まぁ、こうして戻ってこれたのだ。良かった。


「電話するか?」


父親がひょいとポケットから携帯を取り出し、言った。


「いいよ。どうせ帰るから」


科学者から荷物を受け取ると、

俺は事故なんて無かったかのように家に帰った。

事故があったのはもう既に昨日の事となっていたのだが。


俺は家に着いた。

認証キーを落としてしまったらしく、インターフォンを押した。

インターフォンは家の中で持ち歩く時代だ。

小型になり、ポケットに入れることが出来るので、何処にいても応答できる。

しかも、テレビ画面もついている。


しかし、少し間があってから画面が切り替わり、返事が返ってきた。


「はいぃ〜?」


いかにもダルそうな絵梨佳の声だ。

今、昼寝でもしていたのだろうか?


「俺、裕太だけど」


絵梨佳の顔が宇宙人でも見たかのような、そんな驚きの色に変わった。

少しの躊躇ためらいのあと、「今、開けるね」と言い、

がちゃりと鍵が開いた。


俺が扉を開くと、絵梨佳がぱたぱたと階段を下りてきた。

小顔で、色白。目がぱっちりしていて、華奢で小柄な体格。

いかにも「可愛い」子である。


「……何処行ってたの?」


絵梨佳は特に焦りもせず言った。

会話の片隅に出てきたみたいな、そんな感じだった。


「え、……ちょっと、事故っちゃって」


ふーん、と絵梨佳は俺の体を見た。

そして俺と目が合うと、目を逸らしてリビングに入っていった。

もうちょっと心配してくれないのか。

俺は少しムッとした。

まぁ、事故の前もそんな感じだったけれど。


「……クローンで、生き返ったの?」


絵梨佳が突然リビングのドアを開け、言った。


「え、……ああ、そうだけど」


俺は突然のことに驚き、一瞬言葉を無くした。

それを確認すると、絵梨佳はまたそっぽを向いてしまった。



俺は自分の部屋に戻り、ぐっと伸びをした。

なんとなく、疲れた。


俺は気づくと寝ていた。

目を覚ましたのは電話の音が鳴ったからだ。

電話、と言っても、先程のインターフォンの機械と同じ機械が鳴っている。

つまり、インターフォン機能と通話機能を兼ね揃えた機械なのだ。

ややこしい。


俺が取るより先に、絵梨佳が取ったらしい。

ボタンを押す寸前に音が切れた。


俺はやり場の無い手で時計表示のボタンを押した。

午後6時。帰ってきたのが3時だから、3時間も眠っていたことになる。


俺はリビングへ行った。

そこに絵梨佳の姿は無かった。多分、彼女の部屋だろう。

俺は麦茶をコップに注ぎ、一気に飲み干した。

はぁ、と言う親父臭い溜息を吐き、もう一杯注いだ。


特にやることも無い。

取り合えず俺はソファに腰掛けた。


すると絵梨佳がばたばたと走って下りてきた。

がちゃりとドアが開き、

先程と変わりない――少し顔が火照っているが――絵梨佳の顔が覗いた。

衝撃の言葉は、以外にもそこから出された。


「……お義母さんとお義父さん、亡くなったって」


「……はっ?!」


俺は目を丸くした。

嘘だろ、さっきまで会って、話していたのに。


「車に撥ねられたそうよ。轢き逃げ。遺体の……頭の損傷が激しいみたい」


俺は呆然としてその場に立ちつくす、と言うより座りつくしていた。

言葉が出ない。


「だから、クローンでの復元はできても、記憶を戻すのは難しいらしいわ……」


絵梨佳は下を向いて言った。

今の電話は、警察からだったのだろうか。

俺は何も言えなかった。


頭の損傷が激しく、記憶の蘇生が困難な場合、

殆どがクローン体として作られない。

体があったとしても、心が無ければ、蘇らせる意味が無いからだ。

更に、知識も全て無くなるので、体の大きい赤ちゃんと化すだけだ。

――つまり、母親と父親は、この世から完全に居なくなったのだ。




いくら呆然としていても時は過ぎるもので、

あっという間に母親と父親の葬式が終わった。


その帰りに、俺は絵梨佳と橋の上を歩いていた。

橋と言っても、大橋と言う感じではなく、小さくて柵は俺の胸くらいだ。

車が数台、駐車されている。いいのだろうか、こんなところに停めて。


俺達はなんとなくしんみりしてしまい、

絵梨佳はきょろきょろと落ち着かない様子だった。

話し掛けようとはするけれど、話し掛けられない。

俺はついにそれに耐え切れなくなり、口を開こうとした。


「……あの」


「ごめんね」


絵梨佳が突然そう言い、俺は言葉と足を止めた。

絵梨佳もまた、止まった。


「何が……」


そう言いかけた途端、

痛みとともにぐらりと視界が歪んだ。


絵梨佳が俺を思いっきり突き飛ばしたのだ。


俺はバランスを失い、橋の手すりによろけた。

そこへ絵梨佳が近寄り、俺に追い討ちをかけるように川へと押し出した。

まだ体制が立て直せなかった俺は押されるがままに川へ飛び込んだ。


そこで見たものは、絵梨佳の黒い笑みと、

絵梨佳の後ろの、男が腰掛けている……赤い車だった。

ああ、そういうことか。




……お前だったんだな。






クローン技術の発達した今では、命をコピーできる現代では、

命の重さはどうでもよくなっているのか?

俺はそんなことを思いながら、目を閉じた。






読んで下さってありがとうございました!

何か感じていただけたら光栄です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地球の星と申します。今回は評価目的ではありませんが、またおじゃまします。 今自分で次回作を構想中ですが、この作品から一つアイデアが浮かびましたので、参考資料とさせてもらってもよろしいでしょう…
[一言] 初めまして。何度蘇っても同じ体験をするなら、一度限りが良いなと思いました。  絵梨佳さん、怪しさいっぱいでしたが終りがやっぱりそうきたかと; 面白く読めました。それでは失礼致します。
[一言] 地球の星と申します。 もし命をコピーできたらという思いは誰もが考えたことはあるでしょう。 でももしそうなったからといって、命を粗末にするようなことはあってほしくないですね。 科学者である僕と…
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