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勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~  作者: 藤 ゆみ子


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第26話 別々の日々

「ティアさん、無理はしないでくださいね」

「畑仕事には慣れているので大丈夫ですよ」


 私は今、ジーク領の畑にいる。

 土を耕し、種を植え、水をやり、間引きをして、丁寧に育てる。

 魔法を使えなくなったことにより、ひとつひとつの過程がとても大切なのだと身に染みて感じる。


 グラーツ家を出た日、王都の街でジーク領産の野菜を食べたときに感じた違和感は気のせいではなかった。


 食べた瞬間、身体を巡る温かい物。私の、魔力だと。

 ただ、あれだけは微量過ぎて何の変化もなかった。

 

 私は数日間馬車に揺られ、ジーク領に向かった。

 ユリウス様にお願いして、畑の野菜を食べさせてもらうことにしたのだ。

 それから少しずつ少しずつ、魔力が増えていくのを感じている。

 でも、完全に戻るまでは時間がかかりそうなので、畑仕事を手伝いながら野菜を食べ、魔力が戻るのを待ちながら過ごさせてもらっている。

 

「いきなり押しかけてすみませんでした」

「いえ、ティアさんが来てくれて僕もみんなも嬉しいのですよ。そもそも、以前いきなり連れてきたのは僕のほうですから」

「しばらくの間、お世話になります」


 グラーツ領の野菜を食べていてもなにも感じなかったけど、ジーク領の野菜には魔力を感じる。

 はっきりとした理由はわからないけれど、考えた結果、たぶんジーク領の畑は土壌から全て私の魔力が作用しているからではないかと思っている。

 いつ完全に魔力が戻るのか、本当に完全に戻るのかはわからない。

 だけど、可能性があるのなら懸けてみたい。


「魔力が戻れば、帰られるのですか?」

「シオン様の元へはもう帰れません。ですが、できるだけ近くで支えていけたらいいなと思っています」


 もし魔力が戻れば王都に家を借りて、肥料作りをしながら暮らしていく。

 そしてできた肥料をシオン様に渡しにいこう。


 それくらい、いいよね。



 ◇ ◇ ◇



 朝、窓から差し込む光に目をこすり、体を起こす。


 今日もほとんど眠れなかった。

 眠らなければいけないと思っても、一人この広いベッドで横になるとどうしても考えてしまう。

 ティアは今、何をしているだろう。

 幸せそうに笑っているのだろうか。


 その笑顔はもう、僕は見ることはないんだ。


 ゆっくりと起きだし、執務室へと行く。

 落ち込んでいても、領地のために仕事はしなければいけない。


 寝不足で頭が回らないなか、机に向かう。

 以前は大量の書類も、ティアと過ごす時間のためにすぐに終わらせていたのに。


「だめな当主だな……」


 マシューやみんなが心配してくれているのはわかっている。いろいろと気を遣わせてしまって申し訳ない。いつか、この気持ちが晴れることはあるのだろうか。


 しばらく仕事をしていたが、突然呼びかけられた声にパッと顔をあげる。


「シオン、入るぞ」


 返事もしていないのに勝手に入ってきたのはクラウドだった。


「いきなりどうしたの」

「久しぶりにお前に会いに来たんだよ。元気ないって聞いたし」

「別に来なくてもいいのに」

「そんな腑抜けた顔してよく言うぜ」


 僕の気持ちも知らないで。今、一番見たくない顔かもしれない。


「ティアは、元気にしてるの?」

「は? そんなん知らねえよ」

「どうして? ティアはクラウドのところにいるんじゃないの?」

「なんでティア嬢が俺のとこにいるんだよ。いるわけないだろ」

「え? じゃあティアはどこにいるの?!」


 ティアは愛する人と一緒にいるために離縁したいと言った。

 それは、クラウドと一緒にいたいということだろう。けれどクラウドはティアの想いには気づいていないようだったから、これから関係を築いていくんだろうなと思っていた。

 

 ティアがここを出ていってから一度だけ、実家に様子を見に行った。

 でもティアはいなかったから、もうクラウドのところにいるのだと思っていたのに。


「なんで俺のとこにいるなんて思ったんだよ」

「ティアは、クラウドのことが好きなんだと思ってたから」

「バカだなお前。そんなわけないだろ」

「バカってなんだよ」

「シオンがティア嬢のことを好きなのはよくわかってる。でもお前はその気持ちをぶつけたことはあるのか? お前は結局、自分をよく見せることだけ考えて、ティア嬢のことをちゃんと見てなかったんじゃないのか」


 頭を鈍器で殴られたようだった。

 僕は、ティアに愛されようと努力してきた。してきたつもりだった。

 でもそれは、一人よがりだったのかもしれない。

 

 気持ちを伝えて、受け入れられないことに怯えていた。

 だから、その前に好きになってもらわなければと思っていた。

 それが、間違いだった。


 ティアが僕のことを好きじゃなくても、想いを受け入れてもらえなくても、ちゃんと気持ちを伝えるべきだったんだ。

 夫婦という関係にかまけて、ティアの気持ちを知ろうとしなかったのかもしれない。


「じゃあティアは、誰が好きなの?」

「俺に聞くなよ」


 愛する人と一緒にいるべきというのは、どういうことなんだろう。

 ティアはどうして、あんなに泣きそうな顔をしていたんだろう。


「クラウドはさ、ティアのことどう思ってるの?」

「俺のことはどうでもいいだろ。それよりシオンはどうしたいんだよ」

「ずっとティアと一緒にいたい」

「じゃあ、それを伝えるしないんじゃねえの」

「でも、ティアは今どこにいるんだろう」


 お金は十分に持っていると思う。

 路頭に迷っているなんてことはないと思うけれど、実家にもクラウドのところにもいないとなると、どこで暮らしているのか予想がつかない。


「執事が、なんか知ってるっぽかったけど」

「え? マシューが?」

「執事がお前に会ってくれって頼んできたんだよ。その時、なんか知ってる感じのこと言ってた」


 どうしてマシューが?

 僕にはそんなこと何も言っていなかったのに。

 でも、マシューは普段あまり多くを語らないけれど、父が認めた人材なだけあって一番よく周りを理解していて、行動できる人間だ。

 本当に、何か知っているのかも。


「クラウド、ありがとう」

「礼を言われることはない。ティア嬢のこと泣かすなよ」

「わかった」


 クラウドを見送り、マシューのところへ向かう。


「マシュー! ティアの居場所を知ってるの?」

「会いに、行かれるのですか?」

「うん。ティアを迎えに行きたい。今度はちゃんと僕の気持ちを伝えたい」


 それでもし、断られたとしても僕はきっと一生ティアの事を想い続ける。

 ティアに好きになってもらえる男になるように努力を続ける。


「わかりました。ですがティア様は今、魔力を戻そうと頑張っておられます。無理に連れ帰ってはきけませんよ」


 マシューからティアの居場所を聞いて、何をしているかを知って納得した。


 僕は、何か勘違いをしていたかもしれない。

 ティア、早く会いたい。


 でも、その前に僕にもやるべきことがある。

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