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勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~  作者: 藤 ゆみ子


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第15話 ラブラブ作戦

 約束通り、シオン様と街へやってきた。

 今日は周りに私たちの仲が良いということを見せつけるけるためのデート。

 こうして二人でなんでもないお出かけをするのは初めてだ。

 今まで誘ったことも誘われたこともなかったけれど、デートっていったいなにをするんだろう。


「シオン様、今日はどちらに行かれるのですか?」

「んー特には決めてないんだよね。適当にぶらぶらしようかと思って」


 適当にぶらぶら……なんだかデートっぽい響きだ。

 一般的な夫婦やカップルはこうやって何でもない時間を一緒に過ごしているんだろうな。


 そこでふと、一組のカップルが目に入った。

 二人は腕を組み、仲良さそうに並んで歩いている。

 女性が時折声をかけては顔を見上げ、お互いに目を合わせて微笑み合っている様子は誰から見てもラブラブな二人だ。


 噂払拭のために、真似しよう。

 私はシオン様の腕をそっと掴んだ。そして、じっと顔を見上げる。


 するとシオン様は驚いた顔をして私を見る。


「ティア? どうしたの?」

「こうした方が夫婦らしいかと思いまして」

「たしかに……そうだね。だったら、もっと力を抜いて」


 シオン様は私の腕をそっと掴むと、自分の腕に掛けるように移動させた。

 なるほど。腕はこうやって組むのか。


「勉強になります」

「勉強か……そんな固く考えないで、楽しんでね」


 腕を組み、ゆっくりと街を歩く。

 色とりどりの季節の花が並んだ花屋さんに、美味しそうな香りが漂う食堂。

 今まであまり気にしていなかったたくさんの発見がある。

 目的のないお出かけもなんだか新鮮で楽しいな。


 しばらく歩いていると宝飾店があり、なんとなく足を止めた。

 たくさんのキラキラしたアクセサリーに目を奪われていたが……


「あっ!」

「どうしたの?」

「私、シオン様から贈っていただいたネックレスを失くしてしまいました。申し訳ありません!」


 舞踏会の時につけていたはずなのに、ユリウス様の家で目が覚めた時にはつけていなかった。

 今さら思い出すなんて。

 どこで落としたのだろう。王宮? それともジーク領へ行く途中で?

 どちらにせよ、探し出すのは難しいだろう。


 頭を下げ謝るけれど、シオン様は優しく顔を上げて、と言う。


「ネックレスなら、僕が持ってるよ」

「え……?」

「王宮で落ちていたのをクラウドが見つけたんだ」

「そうだったのですね。すみませんでした」

「いろいろあったし、仕方ないよ」


 本当に申し訳ない。

 せっかくいただいたのに、たった一回つけていただけで落としてしまうなんて。

 見つけてくれていたから良かったけど、やっぱり私にアクセサリーは向いていないかも。


「そういえば、気に入って買ったって言ってたブローチは? つけないの?」

「あれは……やはり普段使いするには華美すぎるかな、と思いまして」


 本当はあんな高価なものを付けて出歩くのがこわいだけだけど。


 するとシオン様はそのまま宝飾店へと入っていく。


「なにか、買われるのですか?」

「ティアにね。今回は普段使いできるものを買おう」

「え、そんなそんな! ネックレスを買っていただいたばかりなのに」


 待てよ、ここは素直に喜んで買ってもらった方が夫婦っぽい?

 いや、それよりも良い考えがある。


「でしたら、私もシオン様に何か贈らせてください」

「僕に? それは嬉しいな」


 お互いに、普段から使えるものを選んで贈り合うことにした。

 それぞれ店内にある装飾品を見て回る。


「お互いに贈り合うなんて仲がよろしいですねえ」


 店員さんが話しかけてきた。

 

「はい! そうなんです、仲良しなんです!」


 ラブラブ作戦は上手くいっているみたいだ。


 店員さんはどんな物を贈りたいか聞いてくれる。

 男性向けのアクセサリーなんて正直よくわからなかったのでありがたい。


「こちらの棚にあるものがおすすめです。落ち着いたデザインのものが多いですし、普段使いにはぴったりですよ」


 そこには男性用のリングやブレスレットの他、ネクタイピンやラペルピンなどの装飾品が並んでいた。

 シンプルなものが多くて使いやすそう。

 どれがいいかとじっくり見ていると、ひとつのカフリンクスが目に留まった。


「トパーズだ……」


 四角く加工され、透き通るようなオレンジ色のその石はまるで、クラウド様の瞳のようだった。

 これを贈ったら、シオン様は喜ぶだろうか。

 

「これにします」

「かしこまりました」


 シオン様も選び終わったようで、お互いに購入してお店を出た。


 近くの広場のベンチに座り、先ほど購入したカフリンクスを差し出す。


「気に入っていただけるといいのですが」

 

 シオン様は少し驚いた表情をした。

 そしてすぐにシャツの袖に付ける。


「ありがとう。すごく嬉しいよ」


 頬を綻ばせるその表情に、気に入ってくれたことがわかる。

 クラウド様の瞳と同じだと気づいたのだろうか。


 想像以上に似合っているし、何より喜んでもらえて良かった。


 そしてシオン様は、私にバレッタを渡してくれた。

 青い小さな花が並んだ可愛らしいデザインだ。


「とっても可愛いです」

「髪飾りなら、使いやすいかなと思って」

「ありがとうございます。私も付けていいですか?」

「もちろんだよ。僕が付けてあげる」


 髪に触れられ恥ずかしかったけれど、周りに仲睦まじい姿を見せるチャンスだと思いお願いすることにした。

 ハーフアップにした髪に、パチッとバレッタを留める。


「ありがとうございます」


 振り返ろうとしたけれど、シオン様が髪をスーッと梳かし撫でてくるのでできなかった。


「ティアのコーラルオレンジの髪に青い花が良く映えて綺麗だよ。この色にして良かった」


 そういえば、青い花、シオン様の瞳と同じ色だ。

 自分では見えないけれど、とても素敵なバレッタだったからシオン様の言う通り綺麗だろうな。

 そして、ベンチに座ったまま街の景色を眺める。

 

「こうやって街をゆっくり散策して、贈り物をし合って、なんだか本当の夫婦みたいですね」

「……僕たち、本当の夫婦でしょ?」

「あ、そうでした」


 噂を払拭するために夫婦らしくしないと、と思っていたけど、私たちちゃんと夫婦なんだった。

 自覚が足りなかったかも、と反省していたら、近くのベンチで談笑していたご令嬢たちからとんでもない会話が聞こえてきた。


「私、先日クラウド様とお見合いしたの――」

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