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勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~  作者: 藤 ゆみ子


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第13話 心配

「ここは寒い地域なので葉物野菜や根菜類が良く育つと思います」

「ありがとうございます。わかってはいましたが、農作業は大変ですね」


 私とユリウス様は領民たちと一緒に土を耕し、畝を作り、種を植えた。

 土壌改良には時間がかかると思っていたけど、予想外に早くできた。

 それは、自分でも気付いていなかった力のおかげだ。


「まさか、私の能力が植物だけではなくて、微生物の生育にも効果があるとは思っていませんでした」

「嬉しい誤算でしたね。本当にティアさんには感謝してもしきれません」


 硬い土には堆肥や腐葉土などをすき込み微生物を増やし、時間をかけて柔らかくする必要があるけれど、その工程もあっという間に終わってしまった。


 そして、すでに植えた種の芽が出ている。

 

「とりあえず、はじめなので私の成長魔法で育ててその後は収穫したものや採れた種で育てていくのがいいと思います。必要な肥料なども今後作ってお渡ししますね」

「ありがとうございます。今日はもう終わりにして、また明日にしましょう」

「そうですね。みなさん、今日もお疲れ様でした」


 一緒に畑仕事をしていた領民のみんなにも声をかける。


「お疲れさん!」

「ティアさん、今日もありがとうございます」


 ここの人たちは高齢の人が多いけれど、そんなことを感じさせないくらいみんなハツラツとしている。

 元兵士ということもあり体格も良いし、それが衰えていないのがすごい。

 重厚な剣と比べると鍬なんて軽いもんだ、と笑いながら土を耕していてとても頼もしかった。

 それもあって、作業が早く進んでいる。


 今日植えた種に、明日成長魔法をかけたら帰ることができそうだ。


 片付けをして、ユリウス様のお屋敷に戻ろうとした時、突然目の前に大きな魔法陣が浮かびあがった。


「これは……」


 学園時代、一度だけ見たことがある。

 生徒の中でこの魔法を使えるのはただ一人だった。

 高位魔法であるため滅多に使われることはなく、ほとんど見ることはないのに。


「ティア!」


 魔法陣から出てきたシオン様は私に駆け寄り、そしてギュッと抱きしめてくる。


「シオン様? どうされたのですか?」

「すごく心配した」

「え? 心配した?」


 私がここにいることは了承しているはずではなかったのだろうか。

 こんなに慌てた様子でやってくるなんてどうしたんだろう。


「まさか転移魔法を使ってくるなんて思っていませんでしたよ」

「黙って攫っていったくせに」

「え? 攫う?」

「少し行き違いがあったようです」

「ティア、ずっと探してたんだ」


 ということは、私は無断で来てしまっていたということ?

 だとしたら舞踏会の夜から突然いなくなって、ひどく迷惑をかけてしまった。


「すみませんでした」

「ティアさんは悪くありません。全て僕が悪いです」

「そうだね。ユリウスが悪い」

「これ以上この領地を放っておくことはできなかったのです。僕はどんな罰も受け入れる覚悟でティアさんをここに連れてきました」


 どんな罰もって……。そんな大ごとなの?

 でも、行き違いで私が行方不明になっていたということはユリウス様は誘拐犯になるということ?

 そんな……。彼はただ、領地をどうにかしたいと思っていただけなのに。


「それについてはまた後日しっかり話し合おう。とりあえずティア、帰るよ」


 シオン様はすぐに帰ろうと、私の手を引く。

 けれど、私は首を横に振った。


「畑が完成するまで待っていただけませんか?」

「そんなに長い間、ティアをここに置いておくなんてできないよ」

「いえ、明日には帰れると思います」

「どういうこと?」


 明日、一気に成長魔法をかけて収穫まで行うつもりだ。


 私たちはシオン様を畑へと案内した。

 規則正しく並ぶ畝に青々とした芽を見て、驚きを隠せないでいる。


「この土地が、数日でここまで……」


 まだ全ての土地を改良できてはいないけれど、これからどんどん広がって豊かな土地になっていくだろう。

 

「ティアさんの力は本当に素晴らしいです。諦めかけていたこの土地を生まれ変わらせてくれました」

「本当にすごいね。でも、ここまできたならもう帰ってもいいんじゃない?」


 確かにもう芽は出ているし、あとはしっかりお世話をすれば問題なく収穫できるだろう。

 だけど……


「シオン様、私ちゃんと収穫まで見届けたいのです!」

 

 顔を見上げお願いするけれど、シオン様は困った表情をするだけで、頷いてはくれない。


「僕からもどうかお願いします。心配でしたらシオンさんも一日、家で泊まっていってはどうでしょうか」


 それはとてもありがたい案だ。

 シオン様はよく見るととても疲れた顔をしている。うっすらとクマも出来ているし、なにより魔力消費の激しい転移魔法を使ってきている。

 帰りもそうするつもりだろう。無理は、しないほうがいい。


「もう一度転移魔法を使うには体がきついのではないですか?」

「往復するくらいの魔力は十分あるから大丈夫だよ」

「魔力はあっても、体がきつそうに思います」

「ティアさんの言う通りです。一日、ここで休んでいってください」


 二人で説得し、やっと了承してくれた。

 やっぱり体はつらかったんだろうな。


 そのまま一緒にユリウス様のお家へ戻り、夕食を食べた。


 寝室は同じでいいよねと聞かれたので否定はせず、今日はシオン様と寝ることになった。


 数日振りに一緒にベッドへ入る。

 以前のように距離が空くことはなく、自然と寄り添うように横になる。


「あの……私、ここでユリウス様のお手伝いをすることをシオン様は知っていると思っていたのです。探しているだなんて知らなくて。本当にすみませんでした」

「心配したけど、元気そうで良かった」


 決して私を責めることはなく、ただ心配したと言う。


 そしてシオン様は私の手を握った。

 温かい手に、なんだか安心する。別に寂しかったわけではないのに。


 私がいない間、クラウド様とゆっくりしていてくれたらいいなと思っていたけど、そんな時間はなかったんだろうな。


 シオン様はすぐに寝息をたて始めた。

 今回は寝たふりではなさそう。

 よっぽど疲れていたんだ。


 心配させてしまって申し訳ないことをした。

 今度からはちゃんと自分で確認をとるようにしよう。


 そう思いながらシオン様の寝顔を眺めて、私も目を閉じた。

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