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二話 フェンリルとハンターとギルド

 レッドドラゴンから撤退した二人はカルテナ原生林を無事に脱出し数日後。

 二人はアルーサ支部がある街へと向かっていた。

 整備されたアスファルトの道を見てリルは驚いた。ユウはくすくすと笑っていた。

 街道行き交う人々はリルに驚いていた。


『なんだ。鉄の箱が走っているぞ』

「あれか。魔導自動車と呼ばれる馬車の馬なしバージョンと思ってくれ。」

『そうなのか!ここまで技術が発展しているとは、思わなかったぞ!』


 行き交う魔導自動車を見るたびに目をキラキラさせるリルは好奇心から魔導自動車を追いかける。

 そんなことを続けていたら巨大な城壁が見えてくる。

 城壁の窓からガトリングガンの銃口が見えてる。他にも様々銃器が見えていた。

 城門からアサルトライフルを持った衛兵たちがリルを目掛けて走ってくる。

 あっという間にリルたちの周りを囲まれた。


「そこのハンター!貴様!モンスターを連れてくるとはどういう事だ」

「待って待ってライセンス出すから」

 

 ユウは、ポーチからカードを取り出し衛兵に渡す。


「ユウ様!し、失礼しました。ライセンスお返しします。」

「・・・俺連絡入れてたと思うんだけど?」

「すいません。本当にフェンリルを連れてくるとは思わず。しかし。このままだと街が混乱してしまいます。」

「確かに」

『このままだと街に入れんのか。仕方ないか。ユウ。降りてもらえるか』

「おう」

「フェンリルが喋った!!」


 驚く衛兵たちを無視してリルは、ユウが降りると淡い緑の光を放ち狼の姿から人の姿へと変身した。

 白い長髪に凛とした顔立ちに鋭い目につき、スッと伸びた背、白をメインカラーとして使われた涼しそうな色合いの美しい着物。美女と間違えられてもおかしくはない身姿。


「リル。人の姿に変身できたのか」

「あ。この程度。他愛もないぞ。わっははは」


 リルの美しい見た目に反して渋い男性の声に衛兵の若干名はがっかりしていた。


「おい。そこの兵士よ。これで問題はないなあ」

「え?はい!問題ありません!」


 そこへ装甲車がやってくる。


「衛兵隊長である私が責任を持ってハンターギルドにお連れします。」

「じゃー頼むよ」

「なんじゃこれは格好いいぞ!」


 リルは目新しいのか装甲車の周りを何周も見回っている。

 ユウは、リルを子供のように見ている。

 衛兵隊長に一人の若い衛兵がやってきた。


「隊長。よろしいのでしょうか?」

「何だ。」

「いくら、理性があるモンスターを街に入れて」

「・・・ユウ様がいるからそこは大丈夫だろ」

「ユウ様?あの方はお偉いさんですか?」

「知らんのか。彼は、クレイドルのクランリーダーにしてこの街のエースハンター様だよ」

「ユウってあのユウだったのですか?。モンスターの氾濫をたった四人で収めたというハンターの一人!?」

「そうだよ。あの方は、この街。いや、この国の最強のハンターだよ。」


 英雄を見る少年のような視線を送る衛兵に気づいたユウは、振り返り苦笑いする。

 そんなユウを横目で見ながらリルは装甲車に夢中になっていた。

 一同は装甲車に乗り込み、街へと向かった。

 アルーサ支部のある街。【アルーサ】。半径20キロメートルある街をぐるっと四階建て相当の高さがある分厚い城壁が囲んでいる。農業から工業まであり、自給自足ができるほどの規模の街であり人口は約27万人。


 城壁を越えた先の街が姿を現す。綺麗に整備された歩道に車道。賑わいを見せている商店街など活気が溢れていた。

 リルは、その風景を子供のような好奇心で見ていた。

 

「なんだ。あれは、人がすごい並んでいるぞ」

「あれは、ラーメン屋だねぇ。」

「あれなんだ!?」


 リルは子供のようにユウを質問攻めにしていた。


 その頃。ハンターギルドアルーサ支部の会議室にて、カルテナ原生林の異変についての会議が行われていた。

 スクリーンにユウ視点のレッドドラゴンとの戦闘が映し出されていた。

 セミロングのブロンズが照明によって輝き澄んだ淡い緑の瞳。少し幼さが残る顔が華奢な身体にちょこんと乗ってギルド制服である黒のスーツにパンツを綺麗に着こなしている女性の名はアリサ。

 アリサは、上映が終わったスクリーンの前に立ち、これまでの経緯を事細かに話した。


「・・・よってあの龍を討伐するためにはクレイドのメンバーだけでは、戦力不足と考えられます。」


 円卓の席にはホログラムで各支部の支部長とこの国総理大臣が映し出されており、中央の席は獅子と勘違いするほど雰囲気を出す男がそこに座っていた。彼の名はギルでハンターギルドの長をしている。

 ギルはアリサをギロっと睨みつける。アリサは、若干顔を引き摺る。ギルはゆっくりと口を開いた。


「その龍には名前をつけたか?」


 しーんっと静まる。

 (何言ってのこのおっさん。今は名付けではないでしょう)と言いそうになったアリサは少し呼吸を整え気を引き締め直す。


「いえ、まだ、決まっておりません」

「そうか。」


 ギルの表情はパッと明るくなり何処か嬉しそうに見える。

 (この顔は、名付けするつもりかなぁ。話逸らさないと)っとアリサは思った。


「それならワシが決めようじゃないか!」


 そのギルの一言で皆が一斉に「まじかこいつ」という視線を送る。予想が当たったアリサは引き攣った笑顔を見せる。


「確かに名前がないのは不便ですが」

「そうだろ、そうだろ。だからワシが」

「しかし、今はあの龍の対処を決めてからでもよろしいのではないですか?」


 ギルは渋い顔をしてんーと唸りながら考えていた。一同は胸を撫で下ろす。

 

「確かにアリサの言う通りだなぁ。・・・ならユウに新人チームの教育を任せてクレイドルと同等ぐらいに育てもらうと言うのはどうだった?」

「しかし、それだとユウくんの負担が大きくなりませんか?・・・彼には、まだ調査してもらいたいことがありますので。」

「その仕事は他のハンタークランに任せよ」

「ですがユウくんが持っている仕事はどれもこれも難易度はトップクラスに危険なものですよ?」

「アリサくん。他のハンターにも出来て貰わないと困るんだよ。それに我が国のハンターギルドはクレイドルに頼り切りになっているのが現状だ。・・・だから下が育ちにくい。彼ら以外にも任せられる逸材が欲しいのが現状だ。」

「だからユウくんに新人教育をしてもらうと言うことですか」

「そういうことだ。彼の技術と知恵を後世に伝えるためには必要なことだろ」

「・・・わかりました。私から伝えておきます。」

「ふむ。よろしく頼むよ。・・・対策はこの辺でいいだろ。では、龍の名を決めようじゃあないか!」


 こうして会議は変異したレッドドラゴンの名をつける会議へと変わって行った。

 2時間後。

 アリサは疲れた顔しながらも進行を続けていた。


「では、変異レッドドラゴンの名は、雷公炎龍、ライフレアに決まりました」


 ギルは不満げな顔をしているが他のメンバーたちは無難な名前に決まったことを安堵していた。

 ギルはとても名付けのセンスがなく、いつもハンターがクレームを入れる程酷いものである。

 会議が終わったアリサは、一目散にオペレーター室の自分のデスクに座ると大きなため息をついて突っ伏した。

 そこへ同僚がやってきて缶コーヒーをアリサのほっぺに当てると腑抜けた声でアリサは「ふぇ!冷たーい」と言って飛び起き、頬を膨らませて同僚を見る。


「アリサ。お疲れみたいねぇ」

「ギルマスのせいで疲れたよ」

「お疲れさん。はい。コーヒー」

「ありがとう。はぁ。これから新人のチームの選定だよ。」

「あー。ユウさんに新人チーム一つ指導任せるんだっけ?」

「そーなんだよ。ユウくん。かなり厳しいから。逃げ出さないか心配だよ。」


 アリサは、起き上がり新人のチーム資料を見始めた。同僚もモニターを眺める。

 

「しっかし。あのユウさんが逃げ出す程の強敵とは、かなりヤバいんじゃない」

「・・・。どうだろうね。あの時、準備が足りないって言ってたんだよねぇ。ユウくんハンターの勘はかなり鋭いから、もしかしたら倒れるかもしれないけど。」

「まぁ。ユウさんたちは、働きすぎたし新人教育でいい息抜きになるじゃない?」

「なるといいけど」

「それか。アリサがユウくんをデートに誘うとか?」


 同僚は、ニヤニヤした顔でそういうとアリサの顔は徐々に真っ赤になっていく。


「な、な、なんで!わ、私がデートに誘わないといけないの!」

「なら私が誘うかなあ」

「だ、ダーメー!!」

「えーダメなの?」

「絶対ダメ。誘ったら仕事増やしてあげるよ」


 アリサは、顔を真っ赤にさせて全否定する。そんなアリサを見て同僚は、ニヤニヤと笑っていた。アリサは、ムッと頬を膨らませる。

 ピコンっと通知音がなる。確認すると一件メールが届いていた。


「えと。・・・ユウに任せたい新人チームのメンバーリストとなります。・・・」


 新人チームのメンバーには、10級のハンター3人で構成されている。

 進級試験が数日後に行われること補足が書いてあった。


「・・・あ。なるほど、ユウくんに試験官やらせたいわけね。」

「え?すごい。10級チームでオーク三体倒してる。普通なら8級でようやくなのに。すごい実力じゃん!」

「すごいけど。これ、ユウくんに見せたら試験難易度爆上がりしそう。」

「え?」


 一方その頃。ユウたちは、とあるケーキ屋に寄っていた。

 ユウたちの席には、ショートケーキの5号サイズが一つ、チョコケーキの5号サイズが一つ、抹茶ケーキの5号サイズが一つ、チーズケーキ一切れ、プリンパフェが一つにドリンクが三つ並べられていた。

 リルの目にはハートマークが浮かび、今にも齧り付きそうになっていた。そんなリルを見てユウは笑うのを我慢している。ユウの隣には、縮こまった衛兵隊長が座っている。


「ユウ様。よろしいんですか。このような高級店のケーキを奢ってもらって」


 リルは我慢出来ずにショートケーキをホールごと食べ始めた。ユウは不思議そうに衛兵隊長を見てニコッと笑顔になった。

 

「いいよ。一様、お礼のつもりだし。」

「しかし、衛兵全員奢ってもらうのは流石に・・・」

「全然いいよ。それにこれから迷惑かけるかもだしねぇ。賄賂だよ。賄賂だよ」


 ユウはリルをチラ見してそう言った。衛兵隊長は少し唖然としていた。ユウは横目に紅茶を飲んでプリンパフェを食べ始めた。衛兵隊長もゆっくりとチーズケーキを食べる。


 同時刻。

 アルーサから十キロ程離れた場所にある静寂な森でワイバーンの咆哮が鳴り響く。鳥たちは一斉に逃げ出し森は一瞬にして大騒ぎとなる。

 魚のような灰色の鱗が全身にあり龍のような顔、コウモリのような2枚の翼、2本の足、ヘビのような尾を持ち、体長五メートルある魔獣、ワイバーンは、血走った目で人間の身体、桃色の肌、豚の顔をした魔獣、オークを追いかけていた。

 オークは、木の根に足を取られ盛大に転んでしまいすぐに立ち上がろうとした。しかし、すでに遅かった。オークの背後には、ワイバーンが足をあげ待っていたのだ。

 ワイバーンは、足でオークの頭を掴みとトマトのように握り潰した。そのオークを食い散らかすと再び咆哮を上げる。

 するとその咆哮に呼ばれたかのように天空から一体のワイバーンから舞い降りる。

 ワイバーンは、そのワイバーンを威嚇するが全く効果がなかった。

 舞い降りたワイバーンは、通常の個体より一回り小さく、右目は剣の斬られたと思われる傷跡が残っている。他にも身体中に武器の傷跡がある。歴戦の個体でありその個体には名が付けられている。ワイバーン種特別討伐指定魔獣(ネームドモンスター)個体名【ブラスト】。

 特別討伐指定魔獣(ネームドモンスター)。数多の魔獣の中で討伐が困難又は、不可能とハンターギルドで判断されて個体に名称が付けられ警戒を呼び掛ける。

 そのため、一種の災害と同一視されておりその討伐数は極めて少ない。


 ブラストはワイバーンを見つめゆっくりと地上に降りる。

 ワイバーンは着地したブラストの首元を狙い噛みつこうと襲い掛かった瞬間、ワイバーンはその場に倒れた。

 それは、一瞬の出来事だった。ブラストは、ワイバーンが気づけない速度で尻尾を鞭のように扱いワイバーンの首をへし折っていた。

 ゆっくりとブラストは、ワイバーンの死体に近づき食い始める。

 その姿は王者まるでワイバーンの王のようだった。

 何かに気づいたブラストは一点を見つめ、笑うように吠える。

 ブラストの視線の先には、木々に隠れたハンターがいた。その視線に気づいたハンターは、早急にその場から離れたようと振り向いた。

 ハンターは冷や汗をかいてその場に立ち止まった。すでに目の前には、遠くに居る筈のブラストが居た。乱れた呼吸でハンターはインカムでギルドと連絡を取る。

 ブラストは大きく口を開いてハンターを喰おうとハンターの頭へと口を近づける。


「・・・こちら。樹海迷宮の調査班。樹海迷宮にブラストが出現。家族に愛していると伝えといてくれ。以上通信を終わる。」


 通信を終えたハンターは、祈るように目を閉じた。その時ハンターは、ブラストに食い殺された。


 続く。

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