8話 お城はかっこいい
熱した体が十分に休息出来たことを確認した私達は早速建物のエレベーターに乗り込んだ。
楠木さんはエレベーターに乗り込むと素早く5階のボタンを押すとゆっくりと扉が閉まりグーッと上方へ体を持ち上げられる感覚が起こった。
「なんかこのエレベーターが動く時の感覚って一瞬気持ち悪くない?」
「確かに、古いエレベーターほどそうなるね。」
などと他愛のない会話をしている内にエレベーターが止まったかと思うとスーッと扉が開いた。
エレベーターを降りると小さな狭い空間に出ることになって一瞬は不安になったが、左手から光を感じるとそこは建物の屋上の入口なのだと理解した。
楠木さんは脇目もふらずに屋上に出て楽しそうに手招きすると
「はやくはやく!」
と私を促した。
促されるままに外に出ると青空の下に広がる真っ白いお城が威風堂々と眼前に広がり、まさしく城塞という言葉にふさわしい風景がそこにあったのだ。
流石にこれはお城に興味がない私も
「凄い!」
と声に出さずにはいられなかった。
「凄いでしょ。何度来ても飽きないの。」
楠木さんはパッと明るい笑顔を私に向ける。
(まっ、まぶしい!)
夏の暑い太陽よりも明るい笑顔に思わず目を覆いたくなるほどだった。
楠木さんはお城ではこんなにも眩しい笑顔を振りまいているのか!
私が男性なら思わず『好き!』って告白してしまいそうなくらいだが、その笑顔はお城に向けられているのである。
そんな笑顔の楠木さんが無邪気に
「あのお城で一番大きな建物が天守で、西側の白くて長い建物は百間廊下、眼の前の橋と門が桜橋門」
と建物を指差しながら私に説明してくれたが、私はふむふむと話を聞くだけだ。
だけどこうして建物の屋上からお城を俯瞰してみると、いかに姫路城が昔のお城の体裁を保って残されているかはお城に詳しくない私にも何となくわかる。
お城とは何か想像してくださいと問われた時に想像し得るすべてのものを備えている。
それが姫路城なのだ。
「駅から見てもかっこいい、近くで見てもかっこいい。でも私はここから見るのが一番好き。」
楠木さんがまたしても眩しい笑顔を私に向ける。
(まっ!眩しい!)
そう思いながらも何となく楠木さんのそう言う気持ちがよくわかるような気がした。
建物が何だとかはよく分からないけど、私の眼の前の風景で、もしもお城だけを切り取ることができるのなら、そこだけが別の時代に飛ばされるような、そんな感覚になってしまうのだった。