5話 お城ための街
電車に乗っておよそ1時間程度、遂に目的の「姫路」駅に到着した。
美味しいアップルティーやお姉ちゃんのサンドウィッチ、一人だとしんどいだけの電車移動が友達と二人、更に移動ではなく旅というバイアスがかかっていることもあって、たった1時間の移動が後ろ髪惹かれるような楽しい思い出に変わるのだ。
「意外と大きい駅やなあ。」
大阪しか知らない私は、初めてのなれない土地、地方都市の姫路の駅の大きさや混雑ぶりに興味津々で辺りをキョロキョロと見回す。
楠木さんは
「そだね。」
とにっこり微笑み
「姫路の街は人口40万人の中核都市だし、世界屈指の観光名所「姫路城」を抱えているから、人は多いし駅も始めて来たら大きく感じるかも。」
そう丁寧に教えてくれた。
「姫路の街はお城を中心に街が作られているの。駅を出たらすぐにそれを体感できるわよ。」
楠木さんはなんだかソワソワと早く改札を出たそうにして、キョロキョロと物珍しがっている私の背中を軽く押して私を促した。
促されるままに私は楠木さんと長いエスカレーターを降りて観光客や地元民の喧騒の中を駅の建物を出ると街の中心にズドンと走る道路の遠く先に白いお城がデンと誇らしげに構えて私達の眼の前に現れたのだ。
「あっ、お城や!」
私は思わず指差すと楠木さんは私の肩を叩いて
「こっちこっち」
と私を導く、楠木さんと一緒に階段を登るとそこは駅の展望ホールになっていて少し高いところからお城を眺めることができるようになっていた。
展望フロアに登ると一段とお城が大きく見えてなかなかの遠目にも迫力を感じた。
「なかなかすごいなぁ」
私が感心していると楠木さんは我慢できなかったのかより近くで見ようと防護柵に向かって走り出したのだ。
(ホンマにお城が好きなんやなぁ)
楠木さんの頬は少し紅潮しているような気がする。
私も遅れて楠木さんに追いつくと楠木さんは眼の前の広い道路を指差して
「姫路の街がお城のため街と言えるのがこの道路、駅を出ると眼の前に天守がそびえ立って、その天守に向かって広い道路が走ってる。この道路は私達の視覚を天守に誘導するために作られているの。姫路の人達が如何にお城に誇りを持っているかが伺えるわ。ほら、周りを見ると駅ビルは結構な高さがあるし、注視すると立派なビルも中にはあるけど、そんな綺麗なビルを建てても、お城のほうが立派で優れていると言うのが分かっていないと、こう言う街作りにならない。景観保護のために周りの建物がお城のじゃまにならないように高さまで考えて計算されているわ。多分姫路の人達の殆どが『姫路城が世界一だ!』って思っているはずよ。」
と興奮気味に語りだした。
楠木さんのその勢いに少し引き気味になる私だが、しかし確かに目の前の道路がグーンと伸びて目線がお城に行くように作られている。
楠木さんの興奮が少しだけ乗り移ったのか、私はネズミーランドのネズミーキャッスルを思い浮かべ、比較しながら、姫路城もなかなかのものだなとほんの少しだけ楠木さんが興奮するのも分かったような気がしたのだ。