3話 恥かきステーション
電車に乗るのは本当に久しぶりだ。
普段は自転車か姉の車に無理矢理詰め込まれての移動がほとんどなので、電車に乗ることは稀なのだ。
(そもそも満員電車に乗るのが嫌で自転車で通学できる範囲の学校を選んだんやから・・・)
そう心の中で独り言ちた。
姉は休みの日の早朝から外に出掛けようとする私を見つけると急にオロオロと落ち着きをなくし
「心音ちゃん!私から逃げるの!?いやあああぁぁん!」
と涙をポロポロと流して取り乱し、大変迷惑だったので大慌てで
「ちゃうちゃう、友達と遊びに行くねん。」
と頭を振った。
すると今度は姉は大喜びして
「心音ちゃんを早朝から連れ出してくれる、お友達が遂にできるなんて!」
そう驚いてサンドウィッチを急いで作ると
「朝早くから活動したらお腹空くからお友達と一緒に食べるのよ。お姉ちゃんは大学のお友達がいるから、さみしくないんだからね。」
などと言って、小さなリュックを私に持たせて、まるで出征する兵隊を送り出す母親のように私を送り出してくれたのだ。
しかし、よく考えると私に友達が一人もいないみたいな姉の言いざま、思い出すとムカムカしてくる。
確かに私は根が明るい割には冗談とか言い合う知り合いとかは多いけど、深く付き合う友達は少ない。
だけど姉の言いざまじゃ今まで友達が一人もいなかったみたいじゃないか・・・
「なんて失礼なっ!」
私は心の中で湧き上がった怒りを抑えきれずに遂に声に出してしまう。
隣で大人しく電車を待っていた楠木さんは突然の声にビクンと反応して、私の顔を怪訝な顔で見つめてきたのだ。
「ち・・・ちゃうねん・・・」
私は恥ずかしさで顔に血流が集中するようなそんな熱さを感じていると急に楠木さんがクスクスと両手で口を抑えて笑い出したのだ。
「あかん・・・恥ずかしすぎる・・・」
泣きそうになりながらそう呟くと楠木さんは笑いをこらえて
「ごめん・・・菊池さんってやっぱり面白いね。」
そう言って謝ってくれたけど、きっとまだ心の中で笑っているはずだ。
だって肩が小ギザミにプルプルと震えているのだから。
「お姉ちゃんのあほぅ・・・」
私は小さく恨み言を呟くのだった。