2話 楠木さん
土曜日
普段はベッドで夢見心地でうつらうつらとしている時間帯なのに、私は何故か大阪駅の改札前のベンチに座っていた。
「はあ、なんで私はこんなところに座ってるんや・・・なんでや!なんでや!」
楠木さんに強引に誘われた事を断りきれなかった自分の意志薄弱さを呪いながら、眠気を振り払うためにコンビニカフェのカフェオレを一口啜る。
眠気の中で鼻腔をくすぐるコーヒーの香りに喉を伝わる甘苦い味わいが悔やむ心を落ち着けるような気がした。
「まっ、しゃあないな・・・」
カフェオレのお陰で少しだけ眠気が醒め、そのお陰で『折角だから楽しもう』と言う気持ちが生まれてきた気がした。
楠木さんとはそれほど話した覚えはないけれども、そもそも私はお姉ちゃん子だったから、姉妹仲は無茶苦茶良くて、お姉ちゃんの友達にはたくさん可愛がられている気がするけど、同い年の友達とはそこまで深い仲ではないような気がする。
多少強引とはいえ、楠木さんが声を掛けてきたことは同い年の友達ともっと交友関係を深めるチャンスかもしれない。
強引に引っ張られるくらいが丁度いいのかも?
そう心の中で思い直したのである。
悔やむべきはお城みたいなおじいちゃんが好きそうな場所より、東京という名の千葉にあるネズミの楽園やったら良かったのだけれど・・・
「ネズミーやったらなあ・・・」
朝から人通りが多い改札の前でついつい私の悪い癖である独り言が出てしまっていた。
そんなタイミングで眼の前にヌッと現れたのは、綺麗なストレートヘアにシンプルな白のTシャツに、デニムのパンツを履いて、キャップを被ったモデルみたいな女の子が私の前に現れたのだ。
楠木さんは身長は160cm程度で平均より少し上くらい、更にルックスの良さなどが手伝ってシンプルなコーデなのに物凄く良いのだ。
それと比べて適当にクローゼットにしまっていた胸元にフリルの付いたキャミソールに薄手のカーディガンを羽織って、適当に黒のショートパンツを履いてきた私を自分で情けなく感じる。
「ネズミーもいいけどお城はもっと良いよ!」
楠木さんはそんな綺麗な見た目とは裏腹に、誰もがどんな観光地よりも格上に置くネズミーよりも、お城の方が上だとのたまう変わり者なのが本当に残念なのだ。