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1話 どこか遠くに行きたいわ!

 真夏の太陽がギラギラと照らす教室で机に突っ伏した少女が鬱々とした暗い顔でポツリと


「あー、どっか遠くに行きたいわあ・・・」


 と小さく呟いた。

 少女は毎日毎日鶏肉を照り焼きにするかのようにジリジリと焼き付ける太陽の中を通学する退屈で苦痛の毎日に、非現実に飛び込みたい気持ちで仕方がないのだ。

 この気持ちは家に帰ってゲーム実況や恐怖動画を眺めてみたって落ち着かず、人天道のスミッチでゲームに熱中してみても楽しくもない。

 そして、退屈な授業が終わった瞬間、ついに我慢できなくなって呟いてしまったのだ。


(あっ!ついつい独り言が出てしまった・・・)


 そう思うと恥ずかしくなってパッと顔を上げると、椅子の背もたれに肩肘ついて半身で少女の顔をじーっと見つめる視線を感じる。

 視線の主は楠木さんと言う、普段は席が近いからという理由だけで少し会話する程度の仲の女の子だった。

 楠木さんは可愛らしい顔でニコニコと見つめてくるので、恥ずかしくなって視線を外すために再び机に突っ伏すと彼女はクスクスと笑った。


 (あー!しまったぁ!いつも楽しく笑顔で明るい私が、こんな鬱々と目の下に隈を作って、借金嵩んで人生終わったおっさんみたいに'どっか遠くに行きたいわあ'ってマジでアホな娘やわって、嘲笑われてもしゃあないわ!)


 机に頭を押し付けて悶えるほどに恥ずかしい気持ちで頭を抱えていると彼女は


「菊池さんはどこに行きたいん?」


 と悶える私を覗き込むようにそう質問してきたのだ。


「・・・聞いてたん?」


 恐る恐る聞くと彼女は真顔でウンと頷いた。


「で、どこに行きたいん?」


 どうやら彼女は私がどこに行きたいかを答えるまで許してくれる気はないらしい。

 彼女は追い打つように質問するが、単に鬱々とした気持ちが口から発しただけで、答えようもなく適当に


「どこでもええねん。ただなんか、この退屈で蒸しあっつい日々を忘れさせてくれるくらいの、日常とは違う体験がしたいだけやねん。」


 ぐいっと体を無理やり起こして彼女の目を見てそう言うと、彼女は嬉しそうにスマホを取り出してサササッとブラウザで検索して眼の前に突き出す。

 ブラウザのページを覗き込むと、そこには白亜のお城が画像に映り込んでいた。


「ここに行きたいねん。」


 彼女は得意げにそう言うが私を連れてこの場所にいきたいのだろうか?

 残念ながら私はお城なんて、おじいちゃんみたいな趣味に興味はなく、素っ気なかった。


「行けばええやん?」


 そう言ってグイッとスマホを押し返すが、どうやら彼女はお構いなしのようだ。


「日常とは違う体験をしたいんちゃうん。」


 彼女の言葉に私は窓の外に目を移して興味がないことをアピールしつつ


「そうや。」


 とつまらなさそうに答えたが彼女は


「それなら、こんなコンクリートばっかりの無機質な町中から開放されなきゃ駄目じゃん!」


 そうバンと机を叩きそうな勢いで、グイッと綺麗な顔を今にもキスができそうな距離まで近づける。

 私はその勢いに気圧されてしまって。


「はっ、はい・・・そうやと思います・・・」


 遂そう答えてしまったのだ。

 彼女は私の答えを聞くと満足そうに頷いて。


「じゃあ今週の土曜日、朝の8時に大阪駅で待ち合わせね。じゃあ菊池さんスマホ出して。」


 彼女が勢い良く捲し立てるので、私は抵抗する気力もなく素直にスマホを取り出してSNSのIDを交換した。

 ちなみに彼女のツヤツヤときれいな髪から漂う甘い匂いに少し頭がポヤポヤしてしまった事は秘密である。

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