第4話「百万石の嘘」
■Scene 1 —— 金沢へ帰還、祭の賑わい
6月、金沢。
富山での事件を終えた美琴は、北陸新幹線で再び金沢へ戻ってきた。
この日は年に一度の「金沢百万石まつり」の初日。金沢駅から鼓門を抜けると、街全体が祝いの熱気に包まれていた。
「……まつりの日に、事件が起きないわけがない」
そんな皮肉まじりの呟きとともに、美琴は片町方面へと歩き出す。
太鼓の音、豪華な衣装の武者行列、舞う加賀鳶の旗。
歴史と華やかさの交差点に、不可解な“影”があった。
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■Scene 2 —— 倒れた男と“百万石の書状”
午後2時、香林坊の交差点。
行列を眺めていた群衆の中で、突然一人の男が倒れた。
「——あの人、血を流してるっ!」
美琴が駆け寄ると、男は中年の和装姿。胸元には何かを掴んだまま意識を失っていた。
紙片には、筆文字でこう書かれていた。
「百万石の裏、正す者ここに眠る」
倒れた男の名は河島泰平。
地元の歴史研究家であり、百万石まつりの記録保存活動に従事していた人物だった。
美琴は警察より一歩先に、“事件”のにおいをかぎとっていた。
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■Scene 3 —— 百万石の「裏」とは?
市役所の特設展示に、河島の手がけたパネルがあった。
「加賀藩前田家の初代・前田利家が入城したその日が、百万石まつりの由来。だが、その裏には……」
パネルにはそう記されていたが、肝心の“裏”の部分が、直前になって撤去されたという。
「削除を要請したのは、祭の実行委員会だったそうです」
現場で話を聞いたのは、テレビ金沢の若手記者・浜岡詩織。
過去にテルメ金沢の事件でも関わった知己で、今回も美琴に協力を申し出てきた。
「詩織さん、“裏”って……?」
「河島さんは、百万石入城の史実には“もう一つの真実”があるって話してました。“利家が招かれたのではなく、策略で奪った”と」
「歴史の“英雄”に、別の顔があったとすれば……まつり自体が揺らぐ」
「だから消された。まさに“百万石の嘘”です」
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その夜、美琴のスマートフォンに匿名のメッセージが届いた。
「真実に触れるな。でないと、次は——あなた」
メッセージには、利家の家紋が添えられていた。
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■Scene 4 —— 消された記録、再浮上する過去
翌朝、美琴は河島の書斎を訪ねる許可を得て、膨大な資料の中から“ある一冊の古書”を見つけた。
それは、前田家家臣の密書の写し。
中にはこう記されていた。
「御屋形様は、越中の地より密かに武装し、金澤城へ入る。民は歓喜したように見せかけ、実は……」
後は破り取られていた。
「これが、本当に書かれていたなら……“歓喜の入城”は演出されたもの。河島さんはそれを公にしようとした……だから襲われた」
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午後、美琴は河島が最後に会った人物——祭り実行委員長の娘で、金沢文化振興財団の職員・前田怜子に面会を申し込んだ。
彼女の顔に動揺が走った。
「父には、言えませんでした。彼は……家の名誉に囚われていて」
「けれど、あなたは河島さんと手を組んでいた。真実を記録しようとしていた」
「……はい。でも、彼が襲われるなんて思わなかった……!」
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怜子の口から、ある人物の名が出た。
「ミス加賀友禅」の前任者——野島明美。彼女が“情報を漏らすな”と河島さんに忠告していたという。
美琴の目が鋭くなる。
「ミス加賀友禅……そういえば、数年前に不審な失踪未遂があった。あの事件……まだ、終わってなかったのね」
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