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第1話「北陸新幹線と曇天の街」


■Scene 1 —— 旅立ちの朝、テルメ金沢


テルメ金沢の大浴場から立ち上る湯気が朝日をやわらかく包み込む。

午前7時、美琴は薄く湯気の残るロビーで、手帳をめくっていた。


「今日は富山、ちょっと気分を変えて旅してみようかしら」


探偵としての日々は事件と隣り合わせ。だが、美琴にとって、旅は事件に遭遇する“予感”でもあった。

いつも通り、勘は外れたことがない。


フロントでチェックアウトを済ませ、彼女は金沢駅行きのシャトルバスへ乗り込んだ。


「テルメ金沢、また戻ってくる気がするわ」


心のどこかで、すでに始まっていた“何か”に、彼女の本能はうっすらと気づいていた。



■Scene 2 —— 金沢駅から北陸新幹線へ


金沢駅は朝から観光客でにぎわっていたが、美琴は人混みに紛れながらも目を光らせていた。

ふと、構内のベンチに座っていた和装の老婦人と視線が合う。


「……あら?」


婦人は目を伏せて立ち去った。なにかを言いたげな瞳だった。


(誰かに……つけられている?)


そう感じた美琴は、後方を自然に確認するが、怪しい影は見当たらなかった。


ほどなくして、北陸新幹線つるぎ号がホームに到着。

美琴は車窓から流れる田園風景をぼんやり眺めながら、旅の目的地・富山駅へと向かった。



■Scene 3 —— 富山駅、静寂の異変


富山駅に着いたのは午前9時少し前。

空は曇天。立山連峰は雲に隠れていた。


改札を抜けたその時、場違いな悲鳴が響く。


「誰かっ、駅前で人が倒れてますっ!」


すぐさま駆け出す美琴。駅の南口、地下道入口手前のベンチに、20代の青年が倒れていた。

白いYシャツには血痕のような赤い染みが広がっていた。


「あなた、聞こえますか?」


しかし青年はぐったりして反応がない。

美琴は周囲の人混みを整理し、近くの警備員に指示を飛ばす。


「救急車を!そして警察も呼んで。私は医者じゃないけど、応急処置はできる」


バッグから薄手の手袋とハンカチを取り出し、止血を試みる。

その胸ポケットから、1枚の紙切れが滑り落ちた。


“富山市ガラス美術館 今日午後3時 ——E”


謎のメッセージが書かれていた。



■Scene 4 —— 富山中央署の応接室にて


事情を説明した美琴は、富山中央警察署に招かれた。

応接室では、ベテランの刑事・片山誠かたやま まことが待っていた。


「あなたが……金沢で事件を解決されたって探偵さんか」


「はい。『テルメ金沢殺人事件簿』をいくつか……とはいえ、今はただの旅行者です」


「たまたま事件に遭遇しただけ?……そうは思えんな」


刑事の目は鋭かったが、敵意は感じられない。


「このメモ……“E”とは何だと思いますか?」


「分からん。ただ、あの青年、名は安原航平やすはら・こうへい。富山大学の学生だ。今のところ意識は戻ってない。脇腹を刺されてる。犯行時刻はあなたが見つけた直前とみて間違いない」


「つまり、私が現場の第一発見者。そして“E”が事件の鍵になる……」


静かに、美琴の探偵魂が再び目を覚ました。



■Scene 5 —— 不穏なる「美術館の午後」への予感


駅前のカフェで一息ついた美琴は、富山市ガラス美術館への地図を広げた。

午後3時、青年が誰かと会う予定だった場所。


「“E”……イニシャルか、それとも“End”の意味? あるいは“Error”?」


テーブルには、富山名物の“鱒寿司”と“昆布締め”が運ばれてきた。

だが、美琴の瞳は食事ではなく、遠く霞む立山の方を見つめていた。


——この街にも、闇はある。


その闇が、自分を呼んでいる。


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