第9話「告発の代償」
■Scene1:元・情報課 野村との接触
美琴は、匿名の手紙にあった「野村 薫」の名刺を頼りに、ひとつの喫茶店を訪ねた。
場所は金沢市・広坂通り沿い。朝の光が斜めに差し込む窓辺に、初老の男性が座っていた。
「……白石さん、ですね」
その男が顔を上げると、美琴は思わず息をのんだ。
目の奥に、かつて“無数の告発”を受け止めてきた人間の静かな苦悩があった。
「野村薫さん……あなたが、火付け屋のもう一人の依頼主を?」
「いや。私は、止めようとした側です」
「では、なぜ――手紙を?」
「榊原重隆は“目印”にすぎません。本当の“意志決定者”は別にいる。
椿原初音と志倉恵理子を処分するよう“命じた”男が、県庁側にいたんです」
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■Scene2:県庁に潜む影
「告発の書類は、実際に県庁の内部資料としてもみ消されました。
火事の3日前に“環境保全課”から“財政課”へ不自然な金の流れがあった。
椿原たちはそれを掴んだんです」
「……つまり、不正は警察ではなく“県政”と繋がっていた」
野村は頷く。
「椿原さんは、“県のある幹部”に直接抗議した。
……その48時間後に、彼女は“火災で死んだ”。偶然だと思いますか?」
「その幹部の名前は?」
「当時の副知事――橘 仁志です」
美琴は凍りついた。
「……まだ、現職に?」
「今は国政進出を狙い、某党の推薦候補として動いている。
だが、この件を表沙汰にすれば、確実に潰せる」
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■Scene3:告発を選ぶか、命を守るか
「あなたに託します。これが、当時の帳簿と内部メールのコピーです」
野村は一枚の封筒を差し出した。
「これを持ち出すだけでも、命を狙われる危険があります。
白石さん……やりますか? 命を削ってまで」
美琴は封筒を見つめ、ゆっくり頷いた。
「やります。椿原さんが残した“声”を、私は殺せない」
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■Scene4:告白と決意
その夜。
美琴は、夫・悠真の腕の中で静かに言った。
「怖くないわけじゃない。……でも、ここまで来て逃げたら、私は一生後悔する」
悠真は彼女の手を握った。
「……お前が前に進むなら、俺はずっと隣にいる」
「ありがとう……悠真、キスして」
「……美琴」
二人はゆっくりと唇を重ねた。
「んっ……ふぅ……」
それは、恐怖と覚悟を溶かすような、深くて長い、甘いキスだった。
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■Scene5:迎える朝
翌朝、美琴は片桐刑事と共に、石川県警の報道窓口に向かった。
封筒の中身は、告発として正式に提出された。
「これで、逃げられないわね……橘副知事も」
「だが、美琴。逆に言えば、“反撃”も始まる」
「ええ、だからこそ……終わらせましょう。すべてを」