第5話「瀬川邸の影」
■Scene1:高台の屋敷へ
金沢市内、高台に建つ瀬川一誠の邸宅。
敷地は広く、高い塀に囲まれており、門には監視カメラとインターホンが設置されていた。
美琴は深呼吸を一つ。
「……私が来た意味を、きっと本人もわかっているはず」
インターホンを押すと、しばらくして男の低い声が返ってきた。
「どなたですか」
「テルメ金沢の白石美琴です。お話したいことが」
一瞬の沈黙。
だがその後、ゆっくりと門が開いた。
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■Scene2:再会
応接室へと通された美琴。
そこに現れた男は、あの映像と同じ後ろ姿の持ち主――
瀬川一誠。60代半ば、しかし背筋は伸び、眼差しは鋭い。
「ほう……椿原初音の“知り合い”か。今さら何を探っている」
「……彼女が“遺したもの”が、私のもとに届きました。
あなたが、あの夜……“現場にいた”ことも、映像に残っています」
瀬川の表情は微かに揺れた。
「ふん……で、何を望んでいる。私を罪人に仕立てたいのか?」
「あなたが何をしたのか、きちんと話してほしいんです。
あの火事で、ひとつの命が失われた。椿原さんは“消された”んですか?」
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■Scene3:語られる“沈黙”
瀬川はゆっくりとソファに腰を下ろし、しばらく黙していた。
その時間が、やけに重く感じられた。
「……俺は、あの晩、確かに“現場にいた”」
「だが、“手は下していない”」
「それを……信じろと?」
「俺は椿原初音に“警告”しに行った。“これ以上踏み込むな”と。
だが、彼女は言った。“それでも、私は黙らない”とな」
「あなたは、止められなかった」
「止める気もなかった。……ああ、今にして思えば、“止める”べきだったかもしれんな」
瀬川の目が、ほんのわずかに濁った。
「火事のことは……俺ではない。
だが“起こること”は、察していた。だから……逃げた」
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■Scene4:告白と引き継ぎ
「じゃあ、“誰が”椿原さんを殺したんですか?」
美琴の声は冷たく鋭くなっていた。
「それを知っているなら、今ここで話してください。
黙ることで、また誰かが命を落とすかもしれない」
瀬川は立ち上がり、応接室の棚から一冊の古い手帳を取り出した。
「……この中に、全てが書いてある。“俺の記録”だ。
警察官として、最後に残す“償い”だと思ってくれ」
「あなたは、まだ許されたわけじゃない。でも……受け取ります」
「俺は、もはや逃げも隠れもしない。……これが最後のやりとりだ」
美琴はその手帳を受け取り、深く頭を下げた。
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■Scene5:帰路の中で
車の中。
美琴は助手席に手帳を置き、じっと目を閉じた。
「彼は、直接手を下していないかもしれない……
でも、見て見ぬふりをしたその罪は……重い」
悠真が静かにハンドルを握りながら言った。
「それでも、真実に近づいてる。あとは……手帳の中身次第だな」
「ええ。ここから、ようやく“本当の犯人”が見えてくるはずよ」
そして――
その手帳の最終ページには、こう記されていた。
「真犯人の名は、●●。だが“表に出せない理由”がある」