第4話「長町武家屋敷で囁く声 ―密室の手紙と亡霊の影―」
■Scene01 土塀の静寂に忍ぶ“声”
秋の気配が深まりつつある午後。
金沢・長町武家屋敷跡――しっとりとした土塀と石畳の道に、異変の知らせが届いた。
「女将さん、“屋敷の中から女の声がした”って、観光客が……」
「中には誰もいなかったんですか?」
「はい。鍵もかかってて、完全な密室状態だったそうで――」
武家屋敷保存会からの依頼を受け、悠真と美琴は現場へ向かう。
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■Scene02 静かな部屋、囁く文字
その屋敷は、江戸時代から続く加賀藩士の屋敷跡。
事件のあった部屋に入ると、床の間に一通の便箋が残されていた。
「“約束は守る。私は、いつまでもここにいる。”」
それは筆で書かれた、古い文体の文章。差出人も不明。
だが、悠真は天井の梁に不自然な継ぎ目を見つける。
「……これ、最近開け閉めされた跡だ」
屋根裏を調べたところ、小さなカメラとスピーカーが取り付けられていた。
そして、声の主が誰なのかが浮かび上がる。
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■Scene03 “亡霊”の正体と真実の声
犯人は――ガイドボランティアをしていた若い女性。
自身の曾祖母がこの屋敷に住んでいたことを知り、家族の思い出を「物語」として残そうと、独自の演出を仕掛けていた。
「もう……あの場所で、“居場所”がほしかったんです」
彼女の声は哀しく、しかし悪意はなかった。
美琴は彼女の手をそっと握りしめた。
「人の想いを守りたいって気持ちが、きっと誰かの心に届くから――次は、正しい形で伝えていこう」
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■Scene04 事件と日常の狭間で
旅館へ戻る道すがら、夕暮れの空に二人の影が重なる。
「事件って、ほんとにいろんな形があるんだね」
「人の心が絡むからな。でも……今日の君の言葉、響いてたよ」
美琴は照れくさそうに微笑んだ。
でもこのとき、彼女の身体の奥では、すでに“新しい鼓動”が始まっていた。