第4話「映像の中の男」
■Scene1:解析の夜
深夜。旅館の事務所。
美琴、悠真、そして片桐刑事が並び、古びたUSBを慎重に読み込んでいた。
画面には、10年前のあの夜、旅館の外の駐車場の映像が再生され始めていた。
「この場所……テルメ金沢の裏口ね。映像の時間は、火災発生の30分前」
「待って……この男……」
悠真が画面を指差した。
そこに映っていたのは――
長身で黒の帽子を被り、顔の大半をマスクで隠した男。
だが、その歩き方、背中の張り、そして車のナンバーに――
「この人物……まさか……」
片桐が低く唸った。
「――県警の元幹部、瀬川一誠じゃないか……?」
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■Scene2:失脚した男の影
「瀬川……って、確か5年前に不祥事で退職した人物よね?」
美琴が尋ねると、悠真がうなずいた。
「警察の不正経理、情報隠蔽、外部への資料漏洩……表向きは“自己都合退職”だが、
その実、かなりの“闇”を持った男だった」
片桐が重く言葉を継いだ。
「瀬川は、椿原初音と志倉恵理子の“接点”にも関わっていたらしい。
県警の“不正”を彼女たちが掴んでいたとしたら……口封じの動機は十分にある」
「……それでも、証拠がこの映像しかない以上、まだ“容疑”止まりね」
「いや。ここから先は、“張る”しかない」
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■Scene3:動き出す捜査と美琴の決意
その翌日。
片桐は非公式ながらも、瀬川の現在の所在を割り出し、監視対象とする準備を進めていた。
「いまは金沢市内の高台にある別荘に住んでいる。表向きは静かだが、人の出入りもある。
怪しいのは“裏金絡みの人脈”がいまだに続いてる可能性があるってことだ」
「……じゃあ、私が接触します」
「美琴、それは――」
「私だからこそ、出来るんです。
“あの夜”、ここで何があったのか……“直接問いたださなきゃいけない”気がするんです」
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■Scene4:裏口での面影
夜。
映像に映っていた裏口のあたりを、美琴はひとり静かに歩いていた。
手にした古びた写真。
そしてUSBから抽出した断片のキャプチャ。
「椿原さん……あなたは、この男に“消された”の?」
ふと、背後から風が吹き抜けた。
「誰?」
振り返ると、そこには誰もいなかった。
「でも……気配は、確かにあった」
何かが、また“動き出している”。
そんな確信だけが、美琴の胸に宿ったまま、その夜は静かに更けていった。