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第2話「姿なき指示者」


翌朝、美琴は再び写真を見つめていた。

白黒のポラロイドは年月の黄ばみを帯びていたが、映っている女性の後ろ姿はくっきりと記録されていた。


椿原初音と、もうひとり――。

その後ろ姿は、確かに誰かに似ている。


「でも……誰だったかしら」


その時、美琴のスマホが鳴った。

着信表示には「広瀬 清美」の文字。


「おはようございます、美琴さん。ちょっと気になることがありまして。

金沢市内で、10年前に放火の捜査を担当していた警察職員のうちの一人――

“突然退職して行方をくらませた人物”がいたんです」


「えっ……?」


「名前は、“宇田川 美沙”という女性です。

彼女は椿原初音さんの通報ログにアクセスできる立場だった人物です」


「……宇田川、美沙……」


美琴は、手に持っていた写真の後ろ姿と、記憶の断片が繋がるのを感じた。


「もしかして、この写真の“もうひとりの女性”……宇田川さんかもしれません」



午後、美琴は片桐刑事に相談するため、金沢警察署を訪れた。


「片桐さん……この人を探せませんか? “宇田川美沙”という元警察官です」


片桐は一瞬、眉をひそめた。


「……ああ。いたな、確かに。

でも退職前に“不正アクセス”が疑われててな……処分される直前に“病気療養”って名目で辞めた。

その後は転居、連絡先も不明。まるで逃げるように姿を消してる」


「その人が、この火事に関わっていた可能性があるんです。

ポラロイド写真に写っていた“後ろ姿”が彼女に似ているんです」


「……わかった。内々で調べてみる」



その夜。


旅館のロビーにて、来客の名簿を確認していた美琴の目が、一つの予約名に止まった。


「宇田川 美沙……?」


目を疑った。


しかも――その予約は、明日の宿泊だった。



「まさか……自ら名乗って?」


何かが始まろうとしていた。

写真に映った“真実”が、次の行動を導いているのだと、美琴は直感した。


そして――

その夜、美琴は夫・悠真に告げる。


「明日、“火事の鍵を握る人”が来るかもしれない。……私は、必ずこの手で確かめたい」


「わかった。……一緒に向き合おう」



その静かな夜明けに、旅館の廊下の明かりがふっと灯る。


“夜明けに咲く遺言”は、まだ咲ききっていなかった。


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