第10話「再会は静かに、告げられぬ過去と共に」
■Scene1:旅館の朝、名乗らない来訪者
六月の朝、テルメ金沢に一組の女性客が宿泊予約もなく訪れた。
「一人で泊まりたいのですが、今からでも可能ですか?」
その女性は四十代半ば、紺のワンピースと白いカーディガンに身を包み、表情にどこか影のような疲れが見えた。
そして、美琴の顔を見るなり、わずかに驚いたような目をした。
「……あなたが、白石美琴さん?」
「はい。女将の白石です。お会いしたことが……?」
女性は微かに笑みを浮かべた。
「いいえ。ただ、ずっと会いたいと思っていたのです。名前は……まだ名乗らないでおきます」
それは不思議な再会だった。
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■Scene2:庭先の再開
その日の午後、客室に案内された女性が旅館の庭にいる美琴にそっと近づいてきた。
「…昔、私はこの場所に何度も来たことがあるんです。まだ若い頃、今は亡き方に連れられて」
「お亡くなりに……?」
「そう。……10年前の火事で命を落とした、母です」
美琴は息をのんだ。
志保の証言、再び続いた火災事件、そして「名前を消された通報者」――
「お母様の名前を……伺っても?」
「椿原初音といいます」
――あの火事の、唯一の犠牲者。
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■Scene3:娘の告白
「私は……あの日、母から“最後に会いたい人がいる”と言われたんです。
でも、私には分からなかった。誰のことなのか、どこへ向かうつもりだったのかも」
女性――**椿原 瑠璃**と名乗った。
「その後、火事。母が亡くなって、私は遺品を整理しながら、“テルメ金沢”という名にたどり着いたのです」
美琴はしばらく言葉を失っていた。
「お母様がここに……?」
「ええ。日記に書いてあった。“金沢の旅館で、かつての親友に会うかもしれない”って」
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■Scene4:誰が、なぜ、火を
日記には「真実を話す」とも書かれていた。
だが、その翌日に起きたのが、例の火災だった。
「私が思うに……母は何かを“告発”しようとしていた。
それが理由で、誰かに……殺されたんじゃないかって」
そう語る瑠璃の手は震えていた。
「でも、私には証拠もない。ただ、もう黙ってはいられなかったんです。
だから、あなたに会いに来ました。ここから始めたかった」
美琴は、まっすぐに彼女の目を見て言った。
「私にできることなら、なんでも協力します。お母様の真実を、一緒に探しましょう」
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■Scene5:現れる“あの人”
その夜、美琴が玄関先で空を見上げていると、一台の車が到着した。
運転席から降りてきたのは――
「白石さん、久しぶりです」
広瀬清美。
福井で出会った女性警察官だった。
「少しだけ、金沢に立ち寄ることになりまして。
ところで、今夜お話ししたいことがあるんです。“10年前の火事”に関して」
美琴の心に、何かがざわついた。
まるでこの夜が、始まりの合図であるかのように。
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■Scene6:動き出す過去、そして予兆
その夜――
美琴、瑠璃、広瀬清美の3人は、誰もいない静かな会議室に集まり、椿原初音の日記と当時の火災記録を照らし合わせた。
一つ一つの出来事が、ゆっくりと、だが確実に繋がっていく。
「あの火事は、事故じゃなかった」
「そして、あなたの母は“知ってしまった”――決して口にしてはいけないことを」
火と記憶が交差するとき、真実の扉は静かに軋みながら開き始める。
そして美琴の中には確信があった。
「次の火事は――まだ、終わっていない」
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