表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/106

第4話「記録になかった少女 ― 忘れられた家族、歪められた事故」


■Scene1:名もなき保護記録


中村巡査の手元には、事故後に一時保護された人物一覧の非公開写しがあった。

その中に、“公的記録には存在しない少女”の名が、確かに記されていた。


【仮名:ミナ(年齢不明・負傷なし・発話に問題あり)】

【保護場所:事故現場北側の林沿い・保護時間 午後4時12分】


「この子、結局どこに行ったのかがわかってないんです」

「児童相談所にも記録が残っていない」


そして、美琴が何気なく見ていた古い新聞の隅――

“事故後に立ち退いた家族”として、

**「志村里恵しむら・りえ」**という女性の名が載っていた。


その娘が“ミナ”ではないか――

そう思った時、全ての線が繋がった。



■Scene2:失われた家族、今はどこに


美琴たちは、事故当時の保護情報を追い、

ようやく石川県・加賀市内の福祉施設に、

志村里恵の名前を見つける。


施設長は静かに話す。


「志村さんは、事故のあと娘さんを連れてこちらに来ました」

「“過去の記録は出さないでくれ”と強く頼まれていて……」

「娘さんは現在、別の名字を名乗っています。結婚もされていますよ」


「でも、当時の娘さん……いえ、**“ミナちゃん”**はずっと言っていたんです」

『ママが私を、守ってくれた』って


一同に、深い沈黙が走る。


事故で命を守られた子がいた。

だが、その存在は“記録から消された”。


なぜなら、その存在を“知られてはいけない理由”があったから――



■Scene3:志村母子が抱えた「真実」


志村里恵に直接会う許可が出たのは、

施設側が美琴の“人柄と過去の実績”を確認した後だった。


彼女は、白髪混じりの髪をまとめ、微笑みながら言った。


「まさか……あの時のことを、もう一度話すことになるなんて」

「あの事故の日。私は娘を後部座席に乗せてたんです」


「でもね……私たちの車は、事故車両に巻き込まれた“前”にあったの」

「“一台だけ、前方に暴走して突っ込んできた車”があって――それを見た」


だが、当時の報道では、

その暴走車は「追突の巻き添え」として処理されていた。


「違うのよ。最初に突っ込んできたあの車が、全部のきっかけだったの」

「そして――あれは、**吉永さんが調べようとしてた“ある人の車”だった」」


それは、吉永佐和子が“榊原圭吾にも伝えられなかった真実”だった。



■Scene4:少女は今


その夜、美琴は志村里恵の娘――現在は**長谷川実菜はせがわ・みな**として生活している女性と面会する。


落ち着いた瞳をした、30代前半の女性。

その瞳には、深く過去を見つめるような影があった。


「私……まだ覚えてます」

「事故のあと、木の下にひとりで座ってて……誰かが来るのを待ってた」

「あのとき、誰かの声がした。“助けを呼んだのに届かなかった”って」


「でも、私……もう逃げません。母も、吉永さんも、私を守ってくれたから」



■Scene5:歪められた事故、そして“意図”


数日後、美琴は中村と共に県警幹部に報告書を提出した。

事故の“第一原因車両”と、それを記録から排除しようとした動き。

吉永佐和子の死に至る調査の全貌――


警察内の監査が動き、榊原圭吾も改めて事情聴取を受けた。


「彼女がなぜ“私を許さなかったか”、今ならわかる気がする」

「真実は、書かないことで“殺す”こともあるんですね」



■Scene6:冬を超えて、春を迎える前に


一連の事件が一区切りを迎えた日、

美琴は福井文化会館の屋上で空を見上げていた。


あの日の事故。

あの少女の小さな手。

そして、吉永佐和子の、あまりに静かな死――


「伝えるって、やっぱり怖い。けど……必要なことだと思う」


彼女の隣にいた中村が、照れくさそうに笑った。


「美琴さんって、やっぱり……不思議な人ですね」

「旅館の女将で、事件を追って、心まで背負って……」

「でもそれで救われる人が、またきっといます」


「ありがとう。じゃあ、次の旅先もついてきてくれる?」

「はい。もちろんです。僕はもう、事件がなくても美琴さんのファンですから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ