第2話「記憶の断層と、封じられた証言 ―吉永佐和子が遺した影」
■Scene1:もうひとつの記録、そして“音”
翌日、福井市内の警察署にて――
吉永佐和子の遺品が警察の手で整理されていた。
小さなノート数冊。ICレコーダー。1枚の名刺――
どれも、ごく平凡で、“事件の鍵”には程遠く見えた。
しかし、中村巡査が偶然見つけた録音データを再生したとき、
その空気が一変する。
【……この音、まただ。夜になると、あの音がする。】
【……私が事故現場の近くに引っ越してから、5年。まだ、聞こえる】
【……あれは、誰かの……“呻き”? それとも、助けを求める声?】
一瞬、室内に静寂が満ちる。
「これ、いつの録音?」と美琴。
「ファイル名にあった日付は、5年前。つまり…引っ越し後」
「彼女……音に“何か”を感じていたんだな」
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■Scene2:封じられた証言と、失われた記憶
その後、美琴と中村たちは、
10年前の多重衝突事故の報道資料を福井県警と文化会館から取り寄せた。
そこには、当時の報道とは異なる、ある“封じられた証言”が残されていた。
「事故現場にいた青年が、“女の人がもう1人いた”って証言してたんです」
「けど、その証言は報道には一切出ていない」
「しかも、その青年……事故から半年後に県外へ転出し、消息が不明です」
吉永佐和子が“見ていたもの”。
そして、彼女が誰にも語らなかった“伝えたかった過去”。
それは、事故の“本当の原因”と、彼女自身が関わった可能性を示していた。
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■Scene3:金沢新聞社での違和感
美琴たちは、吉永が最後に訪ねた金沢市内の新聞社を再訪した。
応対したのは社会部の記者・西山。
「彼女、ずっと“ひとりの記者”を探してました」
「でも、その記者――10年前に退職して、今は消息不明なんです」
「彼女は、“あの人に伝えたいことがある”と、何度も口にしてました」
その言葉を聞いた美琴はふと気づく。
(彼女は、“伝えるために”この町に来た……)
(でも、伝える相手はもうここにいない。だから……私に話しかけてきた?)
彼女は、誰かの代わりに“遺す”ために、金沢を訪れた――
その意味はまだ、誰にも分からない。
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■Scene4:静かな追悼と、新たな一歩
その夜、美琴は中村巡査たちと福井市内の小さな喫茶店にいた。
「吉永さんが本当に伝えたかったことって……何だったんだろう」
「真相、全部分からなくても、私たちには“遺志”をつなぐことができる」
「そうですね。あの音も、あの事故も、そして彼女も――消えてない」
その言葉に、皆がうなずいた。
テーブルの上には、吉永佐和子が最後に持っていた一冊の手帳が置かれていた。
そこにはこう書かれていた。
【私は、あの事故の中で“何か”を見た。
でも、それを言ってはいけないと誰かが言った。
だから私は、あの音をずっと録り続けている――】
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■Scene5:月明かりの下で、静かな決意
福井の夜、満月が街を照らしていた。
「この事件……もう少し追ってみたい」
「事故じゃない。“封じられた何か”が、あそこにはある」
美琴の胸の奥で、もう一つの物語が静かに目覚めようとしていた。
そしてその目線の先には、
**「ある人物の名前」**が、徐々に浮かび上がり始めていた――