第1話 「すれ違う記憶と、黙して語らぬ女 ―福井文化会館の再会」
第三章スタートします‼︎
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その日、福井文化会館のロビーには春先の柔らかな日差しが差し込み、
どこか穏やかで、そして不思議な静けさに包まれていた。
美琴は一人、館内に展示されていた戦後の報道資料展を眺めていた。
目を引いたのは、昭和後期の地元紙に掲載されていた「ある事故」に関する特集。
その事故は、今からちょうど10年前――
福井県内の幹線道路で起きた多重衝突事故だった。
(この事故……なぜか、妙に胸騒ぎがする)
そんな時だった。背後から、ふと声が聞こえた。
「……あなた、もしかして……金沢の……?」
振り返った先に立っていたのは、
グレーのジャケットを羽織った60代ほどの中年女性――吉永佐和子。
彼女の瞳には、懐かしさと困惑が入り混じっていた。
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■Scene2:曖昧な記憶と、名乗らぬ再会
吉永佐和子と名乗ったその女性に、美琴は首を傾げる。
どこかで会った気がする――でも、思い出せない。
「以前……どこかでお会いしましたか?」
「たぶん……あの時……でも、記憶が曖昧で……」
2人は、展示室を離れ、ロビーの喫茶スペースへ移動した。
佐和子はゆっくりと紅茶を口に運びながら、語り始めた。
「私はかつて、新聞記者をしていました。福井の地元紙で、社会部です」
「10年前のあの事故……現場近くに今も住んでいます。400mも離れてない場所に」
美琴はその言葉に思わず目を細めた。
あの事故の現場に、彼女が今も“居る”理由は語られなかった。
「時々ね、誰かが私を“見ている気がする”んです……」
「……それが幻でも、真実でも」
言葉は淡々としていた。
だが、そこに滲む“恐れ”を美琴は見逃さなかった。
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■Scene3:一乗谷へ向かう途中の連絡
美琴はその日の夕方、福井市内から一乗谷朝倉遺跡へ向かう予定だった。
歴史資料を探すために文化会館を後にし、車を走らせる。
だが、その途中――金沢の新聞社から一本の電話が入った。
「今日の午後、吉永佐和子という女性が突然訪ねてきまして……
美琴さんのことを少し話されていったんですが、すぐに帰られました。
それが、なんだか奇妙でして」
美琴は愕然とした。
「……吉永さんが、金沢に……?私がここにいるのを知ってるはずなのに?」
その違和感は、数時間後、現実の“死”という形で返ってくることになる。
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■Scene4:突如伝えられる訃報
その夜、福井県警から一本の連絡が入った。
「吉永佐和子さんが、今夜、自宅で死亡しているのが発見されました。
状況は不審死。死因はまだ断定されていません」
思わず、美琴の手からスマートフォンが落ちそうになる。
(さっきまで……私、彼女と話していたのに……)
そして、彼女が金沢の新聞社に現れた理由は不明のまま――
社員たちも、なぜ彼女がその場所を訪れたのかを語れなかった。
「“伝えておきたい過去がある”……そう言ってました」
その“過去”が何なのか。
誰に、何を残したかったのか。
その答えは、吉永佐和子と共に、闇へ消えたままだった。
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■Scene5:中村巡査、再び現れる
翌朝。テルメ金沢にて――
美琴の元を訪ねてきたのは、福井の事件で協力した中村巡査と、
その後輩にあたる20代の女性刑事だった。
3人はロビー奥の静かな部屋で顔を揃え、
吉永佐和子の生涯、そして10年前の事故にまつわる情報を整理し始めた。
「実は、吉永さん……事故直後から“ある人物”に付きまとわれていた可能性があるんです」
「ただ、それが誰かは――今のところ分からない」
「彼女が何を“伝えたかったのか”」
「そしてなぜ、美琴さんに会いに来たのか」
誰もが、沈黙の中に言葉を探していた。