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第19話「消えた砂時計と最後の潮騒 ―水晶浜、記憶を刻む砂」


■Scene1:白砂の浜辺、残された男の姿


初夏の朝、美琴は福井県美浜町の水晶浜を訪れていた。

「日本の快水浴場百選」にも選ばれたこの地は、

透明度の高い海と白い砂が広がる、北陸屈指のリゾート地。


だが、その静寂を切り裂く声が響いた。


「人が……倒れてる!」


通報を受けて駆けつけた美琴の前にあったのは、

波打ち際にうつ伏せで倒れていた男性の遺体。

身元を示すものは何も持っておらず、ただ濡れた革靴と、

**ポケットに残された“空の砂時計”**があった。



■Scene2:不自然な状況と、空の砂時計


地元警察は他殺の可能性を視野に捜査を開始。

美琴も県警協力者として、現場に立ち会っていた。


「靴が濡れているのに、靴下は乾いてる…

靴だけ後から履かされた可能性があるわね」


そして、最も奇妙だったのは――

その“砂時計”だった。


中身は抜かれており、割れてもいない。

しかし中に残る“ある色素”が、通常の砂ではないことを示していた。



■Scene3:町の骨董屋に眠る“同じ砂時計”


美琴は町内を回る中で、

古びた骨董店で同型の砂時計を発見する。


「それ、3年前に10個だけ入荷したうちの最後の1つだよ」

「東京から来た若い男が、“心の整理に必要だ”って全部買っていったらしい」


購入者の名義は「斎藤祐太」。

だが、その人物の所在は不明。SNSや電話番号も削除されていた。



■Scene4:探し求めていた“終わり”の形


警察の調査により、

斎藤祐太は3年前に職場の横領疑惑で姿を消していた元経理部員と判明。


「身の潔白を証明できないまま、仲間に裏切られて失踪……

彼が海を見ながら最後に眺めたのが、自分の“時間”だったんだわ」


美琴は、彼が持っていた砂時計の中の砂を調べる。

するとそれは「越前海岸の砂」だった。


つまり、死の直前に自ら砂を詰めていた――

「ここで終わりたい」という彼の、ささやかな意思表示だった。



■Scene5:真犯人と“もうひとつの砂時計”


しかし、司法解剖の結果――

斎藤の死因は“睡眠薬による中毒死”。

しかも、体内から検出された薬物の種類が、地元のドラッグストアでは販売されていないものだった。


やがて、彼と過去に関係のあった元同僚が、

“退職金の水増し”で警察の取り調べを受けていたことが判明。

その同僚の部屋からは――

未使用の砂時計が1つ、残されていた。


「もう一人、“時間を止めたかった”のは、

嘘を塗り重ねていたあの人だったのかもね……」



■Scene6:浜辺で交わす誓いとキス


事件の解決後、美琴は再び水晶浜を訪れ、

斎藤祐太が倒れていた場所にそっと“砂時計”を埋める。


「止まった時間も、きっと誰かのために流れていたんだと思う」


夜、宿に戻ると、悠真が静かに寄り添う。

彼の腕の中、美琴は心の重みをゆっくりと下ろしていった。


「……ねえ、私がもし時を止めたくなったら、どうする?」

「俺がその時を、一緒に止めてやるよ。

……そして、キスで動かしてみせる」


潮の音と、ぬくもりの中で――

二人は長く、深く、静かな時間に溶け込んだ。


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