第17話「波の下からの手紙 ―若狭港・幻の灯台」
■Scene1:潮風に誘われた偶然の発見
夏の初め、美琴は福井県若狭町の三方海域公園を訪れていた。
近くの道の駅「若狭おばま」で朝食を済ませ、
波音に誘われて静かな入り江に足を運んだ――
そこで、美琴は海辺に打ち上げられた古びた小包を見つける。
「封筒……濡れてはいるけど、中に紙が?」
封の中には、30年前の日付が記された未投函の手紙。
そして小さな鍵と、錆びたチェーンが巻かれていた。
⸻
■Scene2:灯台の記憶、港町に残る名簿
手紙は「佳乃へ」と書かれていた。
内容は、失踪した恋人・慎一郎が彼女に宛てたものだった。
『もうすぐ船に乗る。帰ったら、すぐに会いに行く。
どこか遠くで灯台が見えたら、それが僕の気持ちだと思ってほしい』
美琴は、近隣の漁業組合を訪ねる。
古い船舶名簿には確かに「梶浦慎一郎(当時27歳)」の名前があった。
だが、彼は30年前に「海上行方不明」で処理されていた。
⸻
■Scene3:防波堤の先で見つかった“本当の終着点”
地元の老人によると、
彼の最後の目撃場所は、廃止された「若狭灯台」のある防波堤だった。
「灯台はもう使われてないが、あそこに時折、
誰かが花を供えているんだよ……30年、毎月欠かさずにね」
美琴はその灯台を訪れた――
そして、灯台下の岩場で朽ち果てたロッカーの鍵穴を発見。
慎重に鍵を差し込むと、中から小さな日記帳が出てきた。
⸻
■Scene4:真相 ―隠された航路
日記にはこう書かれていた。
『積荷は魚じゃない。
“あれ”を運んだら大金がもらえるって言われたけど、やっぱり怖くなった。
このまま海に出る。誰にも、誰にも言わない――』
つまり、慎一郎は密輸に関わる闇ルートに加担しようとしたが、
直前で逃げた可能性がある。
そして何者かに追われ、事故に見せかけて命を奪われた――
⸻
■Scene5:30年越しの告白と、女将の手紙
美琴は日記と手紙を持って、
町内の老人会を通じて佳乃と思しき人物に連絡を取った。
その女性は、今も若狭で小さな食堂を営んでいた。
「30年……帰ってくるって信じてたんです。
花は、私です。ずっと、あの場所に……」
美琴は、慎一郎が残した“本当の手紙”と、
彼の命の痕跡を静かに手渡した。
⸻
■Scene6:夜の海と、ひとつの約束
その夜、美琴は海沿いの宿「はまなす荘」の部屋から海を見つめ、
夫・悠真に電話をかけた。
「ねえ、あなた……帰ったら、一緒にあの灯台行かない?」
「ああ。君のそばで、君の時間を抱きしめたい」
「……そしたら、長くて深いキスをしてもいい?」
「それはもう、何度でも」
波の音に包まれながら、
画面越しにそっと唇を寄せ、美琴は小さく微笑んだ。