第16話「静かなる谷に眠る影 ―一乗谷、四つの謎」
■Scene1:戦国の面影と静寂の町並み
初夏の朝。
福井市街から車でおよそ30分、
美琴は戦国大名・朝倉孝景ゆかりの地――
一乗谷朝倉氏遺跡へと向かっていた。
「ここが、五代百年の都――かつての越前の中心…」
整備された町並み跡と発掘現場を前に、美琴は静かに息を吸った。
だがその空気を裂くように、警察の無線が走る。
「桂田長俊氏が遺体で発見されました。現場は一乗谷の資料保管倉庫付近」
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■Scene2:殺された復元の男
桂田長俊(51)は、地元の歴史復元プロジェクトの監修を担い、
近年の一乗谷城跡の復元整備にも深く関わっていた人物だった。
「刺し傷は一ヵ所。争った形跡はなし」
「所持していたはずの“朝倉家古文書の写し”が消えてる」
美琴は現場の状況から、「信頼していた人物に呼び出され、油断したまま襲われた」と推測する。
「古文書の“原本”でなく、写しを持ち歩いていたということは……
誰かと“複製の秘密”を共有していた可能性がある」
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■Scene3:古文書盗難と、失踪した研究者
翌日――
福井県立歴史博物館より「一乗谷城関連の重要古文書が盗まれた」との通報が入る。
展示ケースのガラスは割られておらず、内部から持ち出された形跡があった。
「内部犯行か、鍵の複製がなされたのか…?」
さらに――
その資料を調査していた歴史研究者・**村越徹(38)**が、数日前から行方不明となっていた。
「桂田さんとは論文共同執筆の関係。
ただ、最近口論してたらしいって話もあります」
村越の部屋からは、朝倉孝景時代の年貢記録の断片と、焼かれかけたメモが見つかる。
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■Scene4:歴史の裏に隠された“真の城主”
美琴は、残された資料と関係者の証言をもとに、ある仮説に辿り着いた。
「桂田さんと村越さんは、
“朝倉孝景の直系子孫が江戸時代以降も密かに越前に残っていた”という仮説を追ってた」
「今回盗まれた古文書には、
朝倉宗滴が孝景の直孫に“越前南部の地”を密かに与えた記録が含まれていた」
つまり、彼らは“越前の正統な系譜”を証明する遺構を発見し、
それを発表しようとしていた――だがそれが“ある一族”の逆鱗に触れたのだ。
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■Scene5:湖畔の対峙と真犯人の顔
一乗谷の奥、朝倉館跡から少し外れた池のほとり――
失踪していた村越徹が、自ら警察に出頭してきた。
「殺してません……殺される直前、桂田さんに“逃げろ”と言われたんです」
「僕が古文書を発見したことを話してしまった……それで彼が……」
美琴は、その夜、福井県警の片桐刑事・旦那の悠真刑事と共に、
桂田の後援者であり、地元有力者でもある男の屋敷を訪れる。
屋敷内からは、焼かれかけた古文書の一部と、
村越が発見した写しの痕跡が見つかった。
「まさか、こんな形で隠されていたとは……」
「地元の名門こそ、歴史の“真実”を消そうとした張本人だったんですね」
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■Scene6:谷に残された静けさと、歴史の声
事件は解決し、村越は保護された。
朝倉家の子孫を示す古文書は、正式な調査と共に県へ提出されることとなった。
帰り際――
美琴は一乗谷の町並みを歩きながら、立ち止まって呟いた。
「静かな谷……でも、500年経っても、
戦国の魂って、こんなにも生きてるんだね」
傍らの旦那がそっと手を握り、
ふたりは城跡の見える丘の上で、静かに唇を重ねた――
深く、甘く、歴史の風が吹き抜ける中で。