第12話「静寂の寺に響いた声 ―永平寺と寂光苑の追憶」
■Scene1:美琴の贈り物
「すみません、これを**速達でテルメ金沢宛にお願いします」
美琴は、永平寺門前町の郵便局でいくつかの包みを丁寧に出した。
中には――
•永平寺だるまぷりん
•洋菓子店コロンバの有名ケーキ
•米粉100%のしっとり甘い米ロール
•アトリエ菓修の一番人気スイーツ
「これで少しでも、美羽たちに疲れが癒えたらいいな……」
旅館を思い浮かべながら、美琴はそっと笑った。
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■Scene2:寂光苑の静けさと、永平寺の風
その足で美琴は、永平寺の境内を訪れた。
杉木立に包まれた道をゆっくりと歩く。
「この静けさ……空気がまるで、心を撫でてくるみたい」
続いて訪れたのは、その裏手にある寂光苑。
樹々に囲まれ、まばらな観光客が行き交う中、
一人の女性の叫び声が、空気を裂いた。
「きゃあああっ――!! 誰かっ、ひったくり――!!」
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■Scene3:集まる人々、駆ける足音
「今の声……!」
美琴が駆け寄ると、
若い女性が地面に膝をつき、バッグを奪われた直後だった。
通りすがりの観光客が数人、騒然と集まり始め、
現場にはすぐに規制線が引かれる。
およそ30分後――
制服姿の男女2人の警察官が現れる。
その顔に、美琴は見覚えがあった。
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■Scene4:再会の巡査、中村の声
「女将さん……ですよね?」
目の前にいたのは、三方五湖で出会った福井県警の中村巡査だった。
驚きと笑顔が入り混じった顔で、そっと小声で話しかけてくる。
「……実は私の友人、富山で刑事をしてて。
五箇山の事件でご一緒したって聞きました。
それに……うちの親戚も富山県警で。女将さんの話、噂で聞いてます」
美琴は少し戸惑いながら微笑んだ。
「恐縮です。今日はただの観光客ですから……」
すると中村はそっと打ち明けた。
「実は今回、**福井県警本部長の意向で“外部協力は不可”**になっていて……。
でも夜、**ホテルで事件の概要だけでもお伝えしますね。怖いと思うので」
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■Scene5:福井市・ホテルフジタにて
その夜、美琴が滞在していたのは、
「ホテルフジタ福井」――市内でも老舗の有名ホテル。
22時過ぎ、ロビーラウンジで中村巡査と合流。
中村はタブレットと報告書のコピーを手に、美琴へ説明した。
•犯人は県外から来た窃盗常習犯
•永平寺門前町の混雑を利用し、女性観光客のバッグを狙った
•周辺の防犯カメラと足取りから、福井駅前で身柄確保済み
美琴「迅速な対応、さすがです」
中村「いえ……正直、女将さんが居てくれたから、心強かったです」
彼女はふっと小声で呟いた。
「またいつか……違う形でも、“何か一緒にできたら”って、思ってます」
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■Scene6:朝のメール、そして次の地へ
翌朝、チェックアウトの準備をしていた美琴のスマホに、
1通のメールが届いた。
「女将さん。本当にありがとうございました‼︎
またテルメ金沢に遊びに行きますね!」
―中村より
読みながら、美琴は笑った。
「“また来てください”って言いたいのは、私たちの方なのに」
そして――
次の目的地に向かう旅路へ、ゆっくりと足を踏み出した。