第11話「湖に横たわる真実 ―三方五湖レインボーラインの告白―」
■Scene1:偶然の出会いは、湖から始まった
福井県・三方五湖。
秋晴れの朝、観光客でにぎわうレインボーライン展望台を、
私はひとり、そっと歩いていた。
旅館での週末の仕事を終え、
明日から本格的に始まる“福井取材のための下見”――
そんな気楽な気持ちだった。
だが、その時だった。
「……えっ?」
展望台から少し外れた歩道脇、
レインボーライン沿いの植え込みの先に、
男の人が――倒れていた。
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■Scene2:呼吸はあった。だが、意識はない
「誰か、助けてください――!」
声を上げ、すぐに地元の警備スタッフが駆けつけた。
私は膝をついて男性の様子を確認する。
頭部には擦り傷、呼吸はかすかにあったが意識はない。
30分後、駆けつけた福井県警は、
倒れていた男の身元を照会し、驚いたように言った。
「……金沢市在住の男性、43歳。勤務先は金沢市内の広告代理店……」
「――あれ? 金沢? じゃあ……」
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■Scene3:金沢から来た2人の刑事
その日の午後、
金沢県警から2人の刑事が福井に入った。
ひとりは、私にとって“家族”でもある――夫・高橋悠真。
もうひとりは、祖母の幼馴染である片桐刑事。
観光客でにぎわう展望台の脇。
人のいない松林の陰で、
私は彼に近づき、声をかけた。
美琴「……来てくれてありがとう」
悠真「お前が見つけたって聞いて……無事でよかった」
そして――
木陰の中で、彼はそっと私の耳元に囁いた。
「……大丈夫、もう俺がいる」
そう言って、
唇が私の唇に触れた。
「んっ……っ」
誰もいない場所。
静かに、だが深く、甘く、濃厚なキスだった。
(――ああ、やっぱりこの人のキスで、私の鼓動は生き返る)
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■Scene4:知らぬふりの事情聴取
その直後。福井県警の男女刑事――
40代の男性・本多警部補と、20代の女性・中村巡査が現場に現れた。
2人は、私が“刑事の妻”とは知らず、
丁寧に、しかし形式的に事情聴取を始めた。
本多「発見された時間は?」
美琴「午前10時すぎです。展望台を下りて、舗道を歩いていて……」
中村「他に不審者や物音は?」
美琴「いえ……人通りも少なく、気づいたらそこに、という感覚でした」
彼らは、私に“普通の観光客”として対応していた。
その様子を見守る悠真と片桐刑事の目も、どこか“演技の一部”のようだった。
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■Scene5:動機は、裏切りの果て
被害者の勤務先と家族構成を調べるうち、
福井県警は彼の“交際関係”に着目する。
そして――
あるひとりの女性の名前が浮かび上がった。
田端理子・38歳
金沢市内在住。元婚約者。2年前に婚約破棄。
数日後、福井県警・金沢県警の合同捜査により、
理子の関与が決定的となる。
「私が好きなのか、それとも他の女が好きなのか。
その答えが、ずっと“曖昧”だったのよ……!」
激情の末、
彼をレンタカーで展望台近くまで連れ出し、
突き飛ばして置き去りにした。
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■Scene6:湖畔での“再びのプロポーズ”
事件が終息し、
三方五湖のひとつ・水月湖の湖畔。
静かに夕日が沈んでいた。
私は悠真とともに、ベンチに腰掛ける。
悠真「……また、ひとつ解決したな」
美琴「ええ。でも、心が軽くはならない。誰かが、誰かを好きであった事実が……こうなるなんて」
彼は、私の手を握る。
そして、そっとひざまずいた。
「美琴。俺は何度だって言うよ。
一緒にいてくれ。ずっと、そばにいてくれ」
私は微笑みながら、
彼の首に手を回し、そっとキスを交わした。
「んっ……ふっ……」
ゆっくりと、
長くて、熱くて、甘くて、
そして――深い、濃密なキスだった。
風が湖面を渡り、私たちの影を揺らしていた。