特別編・前編『女将ふたりの週末帳 ―湯けむりに響く声と、眠れぬ夜に』
―土曜日―
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■Scene1:朝の帳場、二人の女将
朝8時。テルメ金沢の帳場に立つのは、美琴と美羽。
予約表を見ながら、仲居頭・佐藤菜摘が言う。
「本日満室。観光客団体が2組、地元のお祝い宴会が1件。
女将さん、覚悟はよろしいですか?」
美琴「ええ。2日間だけ、本気で“旅館の顔”やるわよ」
美羽は気合を入れながら、
「あたしも仮女将、やりきります!」
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■Scene2:歓迎の舞と、観光客の声
午後。ロビーで地元の中学生による“加賀獅子舞”の演舞。
美琴と美羽は正装で出迎え、拍手とともに挨拶する。
「ようこそテルメ金沢へ。女将の白石美琴でございます」
「そして、仮女将の白石美羽です!」
観光客の女性たちが写真を撮りながら言う。
「ほんとに美人姉妹みたい!がんばってくださいね」
「前に事件解決してた女将さんって……あなた?」
美琴は少し照れながら、笑顔で頷く。
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■Scene3:宴会場と料理人との連携
夜。地元の企業団体による“祝いの宴席”がスタート。
板場では料理長がてんやわんや、美琴は帳場と台所を行き来しながら采配を振るう。
「3番席、お吸い物もう一椀追加。急ぎでお願い」
「10番テーブル、お造りに海老の苦手な方が一人」
美羽も仲居たちと協力し、笑顔で配膳をこなす。
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■Scene4:満室の夜、湯の静けさ
22時を過ぎても、館内は活気に包まれていた。
だが、男湯と女湯の間の通路にて、美琴と美羽はふと顔を見合わせる。
美琴「こうして旅館に戻ると、“ここが原点だったな”って思うわね」
美羽「美琴さんがいなかったら、私はまだ“誰かの影”で止まってた」
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■Scene5:寝室に戻った夜、ふたりきり
深夜0時。帳場の仕事を終えた美琴は、自室へ戻る。
そこには、ようやく仕事を終えた夫・高橋悠真の姿があった。
「今日だけは……寝顔だけでも見たかった」
美琴は黙って近づき、
手を取り――そのまま、静かにキスを交わす。
それは、
長く、甘く、深くて、どこか切ない。
何も語らずとも、想いが溢れるほどに。
やがてふたりは、
掛け布団の下で優しく抱き合いながら、
ひとときの“愛する人だけの時間”を過ごす。
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■Scene6:明け方の囁き
美琴「……あなたがそばにいる夜が、一番好き」
悠真「明日も頑張れるだろ? 俺が……また迎えに来るから」
明け方近く、湯気のように静かな時間が、ふたりを包んでいた。